風の向こう側
風の向こう側 (67)

米トッププロたちから愛される「スージーおばあちゃん」の「100歳」サプライズ

執筆者:舩越園子 2020年3月26日
カテゴリ: スポーツ
エリア: 北米
一番のお気に入りはリッキー・ファウラー(C)AFP=時事
 

 米ツアーの選手たちが「グランマ・スージー」と呼んでいる謎の高齢女性がいる。日本流に呼べば、「スージーおばあちゃん」だ。

 そのスージーおばあちゃんが先日、100歳の誕生日を迎えたということで、米ツアーのトップ選手たちが次々に「おめでとう」を伝える数分間のメッセージ動画が作成され、スージーおばあちゃんにサプライズで贈られた。

 スージーおばあちゃんは自宅のリビングルームで大勢の家族や友人に囲まれていた。

 最初のうちは「何が始まるの?」と、不思議そうな、やや不安そうな表情で座っていたのだが、正面に置かれたTVモニターに米ツアー選手たちからのメッセージ動画が映し出されると、たちまち笑顔になった。

 動画には、英国人選手の世界ランク10位トミー・フリートウッド(29)を皮切りに、2016年「全米オープン」覇者ダスティン・ジョンソン(35)や2018年「全英オープン」覇者のイタリア人フランチェスコ・モリナリ(37)といった豪華な顔ぶれが次々に登場し、「ハッピー・バースデー」を歌ったり、語りかけたりする。

 2017年「マスターズ」覇者のスペイン人セルジオ・ガルシア(40)が現れると、スージーおばあちゃんは「オー、ガルシア~」と思わず歓喜の声を漏らした。

 その後も2019年「全米オープン」覇者ゲーリー・ウッドランド(35)や2018年「マスターズ」覇者パトリック・リード(29)、世界ナンバー1に迫りつつあるスペインの新鋭ジョン・ラーム(25)などが「お誕生日おめでとう」「これからも僕らのプレーを楽しんでね」「ずっと健康でいてね」などと語りかける。

 そしてメッセージ・リレーのトリを務めたのは、米国の国民的スター選手、リッキー・ファウラー(31)だった。ファウラーの整った顔がアップで映し出された途端、スージーおばあちゃんは「オー、リッキ~」と、うっとり顔。

「ハッピー・バースデー! ディア・スーザン!」

 セクシー・フェイスでそう囁きかけ、投げキスをしたファウラーを見て、スージーおばあちゃんもすかさず投げキスを返した。周囲で見守っていた家族らも大喜びで拍手。実に平和で、和やかで、心温まるシーンだった。

PGA TOUR Video

<私はとても幸せ>

 さて、ここまで読んでくださった読者の方々は、動画の内容はご理解いただけても、「で、スージーおばあちゃんって誰? 何者?」と首を傾げていることと思う。

 スージーおばあちゃんとは、今年3月1日に100歳になった「スーザンさん」。実は、それ以外の個人情報は公にされていない。

 スージーおばあちゃんは大のゴルフファンで、高齢ながらSNSも使いこなし、いつのころからかフェイスブック上でゴルフに関する自身の「声」をアップするようになった。

 毎週、米ツアーの試合をTV観戦するのが何よりの楽しみ。試合のこと、選手のこと、温かい激励の言葉も発するが、ときには選手を思えばこその苦言も呈す。包み隠さず、正直に想いを明かすこともある。

 たとえば、2013年9月には、

〈もうすぐ、イリノイ州レイク・フォレストですばらしいゴルフの大会が開かれるわ。世界のベスト・プレーヤーたちがフェデックスカップと10ミリオンをかけて戦うの。どの選手も幸運に恵まれますようにと願っているけど、私には勝ってほしい好きな選手がいるのよね。4日間、しっかり観戦するけど、やっぱりアメリカ人に優勝してほしいわ〉

 と発信していた。

 これは、シーズンエンドのプレーオフのうちの1つ「BMW選手権」の開幕前の投稿だ。その試合をことさらに楽しみにしていたわけだから、おそらく彼女はイリノイ州か、その近辺に所縁があるのだろう。

 2016年2月には、

〈ゴルフとスーパーボウルが両方開催される、すごい週末! でも、私はスーパーボウルよりゴルフを楽しみました〉

 と発信していた。

 彼女がここで言った「ゴルフ」とは、米ツアーの「ウェイストマネジメント・フェニックスオープン」のこと。2016年大会と言えば、松山英樹(28)がファウラーとのプレーオフを制した大会だった。

〈私が一番好きな選手、リッキー・ファウラーがプレーオフで負けてしまったことが、悲しいわ。リッキーはプレーに臨む姿勢が誰よりも素晴らしい選手。ゴルフは本当にエキサイティング。自分を磨かなければ、できないスポーツ。毎週、試合を観るのが楽しみです〉

 2016年12月には、「タイガー・ウッズ(44)の大会」である「ヒーロー・ワールド・チャレンジ」の際、

〈この週末、世界のトップゴルファーたち17人プラス、タイガー・ウッズが出場するけど、タイガーは戦えるのかしら? 4日間、全部観戦するわ〉

 と、腰の故障に苦悩していたウッズを気づかっていた。

 そして昨年3月、99歳の誕生日の投稿は、こんな内容だった。

〈私の最後の二桁年齢のバースデーを家族や友人たちがお祝いしてくれました。みんなの温かい言葉が私の長寿の特効薬。私が100歳になるまで生きているかどうかは、神のみぞ知ること。こうしてみなさんと交流できて、私はとても恵まれ、幸せです〉

「みんなのおばあちゃん」

 この99歳の誕生日の投稿を米ツアー選手や関係者たちの多くが見て、記憶していたそうだ。だから今年、100歳の誕生日を迎えるときに、みんなで彼女へお祝いのメッセージ動画を贈ろうという企画がどこからともなく持ち上がり、米ツアーとTV中継局である『CBS』のサポートを得て実現した。

 そもそも、スージーおばあちゃんは、米ツアー選手の家族でも関係者でも知り合いでもなんでもなく、文字通り「一介のゴルフファン」にすぎない。

 だが、ゴルフを愛し、米ツアー選手たちを心の底から応援し、ときには苦言さえ呈する彼女を、「まるで僕のおばあちゃんみたいだ」と選手たちは感じているという。

 だからこそ、「一介のゴルフファン」が、「みんなのおばあちゃん」になった。

「みんなのグレゴリー」も

 米ツアーには過去にも「一介のゴルフファン」が「みんなのブロガー」になった例もある。

 2008年、米ツアーの公式HPの一角に、「DJ・グレゴリー」という名の30歳の会計士のブログを紹介するコーナーが設けられた。

〈僕には手足に障害があり、杖を使って歩いています。今年、僕は米ツアーの試合を追いかけて、合計45週間、旅をします。毎試合、僕は好きな選手を1人選び、4日間、毎日その選手のプレーに付いて歩き、観戦記をこのブログに記します。そこで出会うファンやボランティアの方々ともお話できることを楽しみにしています〉

 ブログが始まった直後に、私自身、グレゴリーさんを取材させてもらった。彼は未熟児として生まれた際の保育器の事故が原因で、四肢に障害が出たそうだ。

「でも、杖があれば歩けるし、やる気になれば、なんだってできる」

 何に対しても前向きに気丈に取り組んできたグレゴリーさんは、普通の学校に通い、ゴルフも始めた。大学卒業後は会計士として働く傍ら、お金と時間を作っては米ツアーの試合観戦に出かけていた。

 選手たちに声をかけ、握手やサインを求めると、「誰もが温かく接してくれた」。

 その見聞をブログに記しているうちに、米「サウスウエスト航空」が飛行機の無料チケットを提供するスポンサー契約をオファー。複数のホテルチェーンやレンタカー会社も次々に無料提供を申し出てくれた。さらに、自力では車の運転ができないグレゴリーさんに代わってレンタカーの運転や荷物運びなどを助ける「観戦ヘルパー」のボランティアも次々に名乗りを上げた。

 そして、米ツアーが彼のブログをHPに掲載するようになった。

 以後、試合会場には、体を大きく揺するようにしながら杖を使って歩くグレゴリーさんの姿がほぼ毎週、見られるようになった。ロープの外側を一生懸命に歩き、毎日18ホールを「完走」する彼を見かけるたびに、選手たちは試合中でも「ヘイ、DJ! 元気かい?」と声をかけるようになった。

 かくして「一介のゴルフファン」は「みんなのブロガー」になった。

 もはや彼は毎週の観戦記からは「卒業」しているが、いまでも時折試合会場へ足を運び、いまなお「みんなのグレゴリー」として愛されている。

 米ツアー、米ゴルフ界には、そんな心温まる実話が生まれ、広がっていく土壌がある。

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執筆者プロフィール
舩越園子 ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。
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