アフガニスタン崩壊は誰の罪か(2021年8月ー1)

カブールの空港で赤ん坊を引き上げる米海兵隊員(オマル・ハイディリ氏提供) ©︎AFP=時事
アメリカのアフガニスタン関与はあまりにも脆く崩壊した。カブール陥落の直後から、その20年にわたる政策評価と「敗因」分析は多数提出されている。一方で、この地域のさらなる混乱回避と安定化に、アメリカと国際社会がなすべきことの検討も。

1.カブール陥落という衝撃

 2021年8月15日、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領が国外に逃亡したとの報道が流れた。想定外の情勢の急展開であり、アフガニスタン首都のカブールが陥落したのだ。

   反政府武装勢力タリバーンは、すでにカブールのすぐ手前まで到達しており、その都市を包囲した上でガニ大統領の辞任とカブールの「無血開城」を求めていた。国土の大半、そしてカブール以外の主要都市がタリバーンの支配下に入っていた。とはいえ、あまりにも速い情勢の展開に国際社会は衝撃を受け、カブールに駐在する外交官たちは急遽、身の安全のためにも国外に脱出する必要が生じた。

   ガニ大統領が国外に逃亡して間もなく、タリバーンがカブールに進攻する頃には、アフガニスタン国軍の大半がすでに国外に向けて逃亡を始めており、タリバーンは容易に大統領宮殿を占拠することが可能となった。ここに20年にわたるアメリカのアフガニスタンへの軍事関与は終結し、またアフガニスタン戦争を経て国際社会の支援の下で建国されたこの国家はあまりにも脆く崩壊した。そして、20年ぶりにタリバーンによる統治が再び始まった。

 予期せぬ急展開を見せたアフガニスタン情勢をめぐり、すでにいくつかの注目すべき論考が書かれている。たとえば、2014年から16年までカブールに駐在していたアメリカのアフガニスタン大使マイケル・マッキンリーは、カブール陥落の翌日となる8月16日に『フォーリン・アフェアーズ』誌のウェブサイトに「われわれ全員がアフガニスタンを失った」と題する論考を寄せた[Michael McKinley, “We All Lost Afghanistan: Two Decades of Mistakes, Misjudgments, and Collective Failure(われわれ全員がアフガニスタンを失った)”, Foreign Affairs, August 16, 2021]。そして、過去20年間のアメリカのアフガニスタン関与を回顧して、なぜこのような事態に帰結したのかについて、冷静に分析する。

   もちろんアメリカにも色々な失策はあった。たとえば、「戦闘の季節の最中であるにも拘わらず、9・11テロの20周年へ向けて拙速に撤退を急いだバイデン政権のタイムテーブルは誤っていた」と批判する。とはいえ、カブール陥落とタリバーンの権力復帰という結果はジョー・バイデン米大統領一人に責任を押しつけるべきではなく、むしろそれは「過去20年間の政策判断の誤りの連続」がもたらした帰結であると述べる。そして「今、声を上げて批判を述べている者たちの多くは、これらの政策のかつての立案者たちであった」と、マッキンレーは断罪する。そして次のように結論づけた。「われわれはタリバーンの強靱性を過小評価していた。そして、この地域の地政学的な現実を、われわれは見誤っていた」。

 興味深いことに、『フォーリン・アフェアーズ』では今年の5月4日に、アフガニスタンのガニ大統領自らが、「アフガニスタンにおけるリスクと機会のとき」と題する論文を寄稿し[Ashraf Ghani, “Afghanistan’s Moment of Risk and Opportunity: A Path to Peace for the Country and the Region(アフガニスタンにおけるリスクと機会のとき)”, Foreign Affairs, May 4, 2021]、タリバーンの攻勢に危機感を示しながらも、むしろ楽観的な将来の見通しを語っていた。この論文の冒頭でガニ大統領は、「ジョー・バイデン大統領の、9月までに2500人の米兵をアフガニスタンから撤退させるという決断は、この国と、その近隣諸国にとって、転換点となるであろう」と的確に論じた。そして、米軍のアフガン撤兵には「リスク」と「機会」が伴うと主張したのである。

   ガニ大統領がこの論文を寄せたこの頃までに、首都カブールを除く国土の大半はタリバーンによって支配されていた。とはいえ、アフガニスタンの治安維持部隊は30万人を超える大きな規模であり、アメリカなどから提供された最新鋭の装備、さらにはタリバーンが保有していない空軍を有していた。バイデン大統領への春頃のインテリジェンスのブリーフィングでは、2-3年以内にタリバーンがアフガニスタンを支配するようになるであろうという警告が発せられていたという。それをもとに、バイデン大統領、そしてアフガニスタンのガニ大統領は、よりいっそうの軍事力と警察力をアフガニスタン自らが備える必要を認識していた。まさかそれが、2-3年ではなく、2-3ヵ月であるということは、このときにはまだバイデン大統領も、ガニ大統領も、予測できずにいた。それほどまでに、8月に入ってからのタリバーンの侵攻作戦はあまりにも迅速であった。

   カブール陥落直前の8月14日、『エコノミスト』誌は皮肉なことに、「アフガニスタンを救うことはまだ可能かも知れない」と題する社説を掲載していた[Leaders, “It might still be possible to save Afghanistan (アフガニスタンを救うことはまだ可能かもしれない)”, The Economist, August 14, 2021]。とはいえ、この社説はむしろ、アフガニスタンの悲劇的な状況を冷徹に論じており、たとえ「アフガニスタンを救う可能性」が存在していたとしても、実際には「アメリカが試みようとしない」ことが問題だと指摘している。この社説の冒頭では、「タリバーンが自動的に軍事的な奪取を行うという悲観的な帰結は、必ずしもすでに必然的であるというわけではない」というマーク・ミリー米統合参謀本部議長の言葉を参照している。しかしそれが可能となるためには、アメリカと国際社会は完全にアフガニスタンから撤退するのではなく、限定的な兵力を残存することが重要だ。だが、バイデン大統領が5月に、米軍の完全な撤退を発表してからアフガニスタンの3つの主要な地方都市がタリバーンに奪取された。いわば、この『エコノミスト』誌の社説は、悲劇的な国家の崩壊を回避するための、アメリカ政府へ向けた最後の嘆願であったのかもしれない。

   同様の主張は、セス・ジョーンズ米戦略国際問題研究所上級副所長の論考にも見ることができる。ジョーンズは『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄せて、「タリバーンの勝利は不可避ではない」と題する論考を書いている[Seth G. Jones, “A Taliban Victory Is Not Inevitable: How to Prevent Catastrophe in a Post-American Afghanistan (タリバーンの勝利は不可避ではない)”, Foreign Affairs, July 21, 2021]。『エコノミスト』誌の社説同様に、米軍のアフガニスタンからの撤退が大きな転換点となることを想定しながら、それでも大混乱になることを回避するために必要な措置が多く残されていることを指摘する。これらの論考はいずれも、米軍のアフガニスタン関与の継続の限界を十分に認識した上で、それでもなおこの地域の安定化のためにアメリカや国際社会が行うべき措置が数多くあることも示唆している。同じように、ロナルド・ニューマン米元駐アフガニスタン大使も、『ワシントン・ポスト』紙への寄稿の中で、アフガニスタン政府への支援を継続し、アフガニスタン国軍の士気を高める必要を指摘している[Ronald E. Neumann, “Afghan resistance to the Taliban needs U.S. support-and a big morale boost (タリバーンに抵抗するアフガニスタンのレジスタンスには、アメリカの支援とそれに伴う大いなる士気の高揚が必要である)", The Washington Post, July 25, 2021]。  (続く)

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
API国際政治論壇レビュー(責任編集 細谷雄一研究主幹)
米中対立が熾烈化するなか、ポストコロナの世界秩序はどう展開していくのか。アメリカは何を考えているのか。中国は、どう動くのか。大きく変化する国際情勢の動向、なかでも刻々と変化する大国のパワーバランスについて、世界の論壇をフォローするアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の研究員がブリーフィングします(編集長:細谷雄一 研究主幹 兼 慶應義塾大学法学部教授)。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)について:https://apinitiative.org/
フォーサイトのお申し込み
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top