インテリジェンス・ナウ
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高まるロシア「ウクライナ侵攻」危機:米国はCIAを動員し対露ゲリラ戦も

ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア武装勢力支配地域の境界に展開するウクライナ兵 (C)AFP=時事
大地が凍結する2月にもウクライナ侵攻の可能性が高いロシア。米国はこれまでも最大級の軍事援助を行ってきたが、もしウクライナが占領された場合、「反乱軍」を支援する計画もあるという。

 ロシア対ウクライナ+米国+西欧の軍事的緊張が高まっている。

 1月10~13日に続けて行われたロシアと米国・西欧諸国の高官協議がいずれも不調に終わったのを受けて、米露の情報戦争が始まったようだ。

 注目されているのは、ロシア軍が本格的にウクライナを侵攻した場合、ウクライナ軍も含めた抵抗勢力をジョー・バイデン米政権が支援する計画の行方だ。すでにロシア側に対して、ロシアが勝っても、その後のゲリラ戦で血みどろになるぞ、と警告したという。

当面は情報戦争に焦点

 

『ニューヨーク・タイムズ』によると、米軍のRC135電子情報偵察機が年末の12月27日からウクライナ上空を飛行し、地上のロシア軍司令部間の交信を傍聴。監視・目標攻撃レーダーシステムを搭載したE8Jスターズ対地監視機がロシア軍増強の状況把握に努めている、という。

 特に関心を持って注視しているのは、ロシア軍がウクライナ国境近くに戦術核兵器を移動させるかどうかだ。ロシア軍当局者が先に、戦術核配備も1つのオプションと示唆したことがその根拠になっている。

 ロシアは米国に対して、ウクライナなどの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対すると同時に、欧州配備のすべての米軍の核兵器撤去も要求しており、米軍に対抗してあえて「核」配備の構えを示したとみられる。

 米情報機関がバイデン政権に対して伝えた情報によると、ロシアはなおウクライナへの侵攻計画を継続して進めているが、ウラジーミル・プーチン大統領が侵攻開始に踏み切る決断はまだしていないとみられる。

 しかし、ロシア軍は侵攻開始で必要とされる17万5000人への兵力増強に向けて、ウクライナ国境地帯への追加兵力派遣を継続している。年末の段階では国境地帯に計約10万人の兵力が集中、と報道されている。その後、ロシアは1万人の兵力を撤収したとの情報が伝えられたが、この兵力はウクライナ侵攻に起用する兵力ではないという。

 国境付近のロシア部隊は演習や訓練を繰り返し、戦闘に備えて練度を高めている。

 また、軍用ヘリなどの空軍兵力に加えて、兵站任務に就く部隊も増強しているもよう。空軍は対地攻撃戦闘機などで地上部隊の支援に当たる。

 ウクライナの地表は例年、1月に凍結するが、今年は温度が高く、地表面がまだ凍結しておらず泥まみれのため、2月以降に攻撃、氷が解ける3月までに戦闘を終える可能性が米政府内で指摘されているようだ。プーチン大統領は気候情報も検討対象にしているとみられる。

「偽旗作戦」でウクライナ攻撃を開始か

 1月10日にジュネーブでの米露戦略安定対話、12日にはブリュッセルでのNATOロシア理事会、13日にはウィーンでの欧州安保協力機構(OSCE)のウクライナをめぐるロシアと米国および西欧諸国との高官協議が、対立したまま終了した。

 その翌14日、米政府はロシアがウクライナ国内に秘密工作員を派遣し、侵略を正当化するための「口実」をデッチ上げようとしている、というインテリジェンスを情報機関が得たことを明らかにし、ロシアを非難した。

 ホワイトハウスや国防総省の報道官によると、それは昔から「偽旗作戦(false flag operation)」と呼ばれる秘密工作で、別の国の工作員に偽装した部隊が攻撃を行い、それに対する「防衛」を口実に、正規の部隊が侵攻するという作戦のことだ。

 米政府は、具体的にどのような工作だったか明らかにしていない。ただ、1月14日にウクライナ国防省情報総局が明らかにしたところによると、ロシア・スパイがウクライナ南西部の隣国モルドバから実行する破壊工作を探知した。この工作では、ウクライナ国境に近い地域に配備されたロシア軍に対して攻撃を行う計画だと言われる。

 恐らくロシア・スパイが「ウクライナ軍」を偽装してロシア軍部隊を攻撃し、それを根拠にロシア軍がウクライナに侵攻する、という作戦のようだ。

 それが事実とすれば、このデッチ上げ情報を根拠に、黒海に展開するロシア海軍艦船からウクライナ南部への攻撃を正当化する可能性があった、と『ニューヨーク・タイムズ』は伝えている。

 バイデン政権はこの情報の概略を上下両院情報特別委員会の正副委員長や主要な同盟諸国に伝えた。その事実を知った『CNN』がスクープ、これを受けて、ロシアによる開戦を妨げるために、米政府が概略を報道陣に公開したとみられる。

数日で“首都攻防”も

 ロシア軍が対ウクライナ開戦に踏み切った場合、どのような戦闘になるか。米シンクタンクなどがシミュレーションを試みている。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートは、ロシア軍がウクライナ国境から首都キエフに到達するまでに少なくとも数日を要する、とみている。さらに人口約300万人のキエフなど都市部を占領する場合、市街戦で相当の時間がかかり、多くの死傷者を出す可能性がある。

 他方、ランド研究所のレポートは、ロシア軍が数日間で東部のドニエプル川東岸に到着するとみている。

 いずれにしても、ウクライナ軍は強大なロシア軍に対して劣勢だが、どれほど抵抗できるかがカギとなる。

 2014年のクリミア半島併合の際には、ウクライナ軍はなすすべもなく、貧弱な装備しかない弱さを暴露される結果となった。

 その後7年間にわたり、米国が最大の軍事援助国となって25億ドル(約2900億円)以上の援助を供与してきた。昨年12月、議会で可決された国防予算ではさらに3億ドルの対ウクライナ安全保障援助が追加される。

 これまでの軍事援助では、レーダー、ドローン、暗視ゴーグル、武装ボート、さらに「ジャベリン」対戦車ミサイルなどが提供された。昨年11月には、約88トンの弾薬、ジャベリン発射台約30基、同ミサイル180基が供与された。対ロシア戦の戦場ではこのミサイルが有効とみられている。

 さらに150人以上の米軍事顧問団、同盟諸国からも十数人が常駐してウクライナ軍の訓練に当たってきた。ウクライナ軍の士気が上がってきたと評価する向きもある。

米国防長官らがロシアに直接警告

 それでもロシア軍が戦闘で圧倒し、ウクライナを占領した場合はどうするか。

 アンドリー・ザゴロドニュク元ウクライナ国防相は米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のサイトに寄稿し、ロシア軍が勝利した場合、ウクライナが反乱軍を結成する構想を明らかにした。

「戦闘経験のある元兵士や予備役、志願兵などで数万人の部隊を組織し、小規模だが機動力のある部隊によって、クレムリンが占領政府を組織するのを不可能にする」

 というのだ。

 実際、『ニューヨーク・タイムズ』によると、ロシアがウクライナを占領した後、米国は「反乱軍」を支援する計画を検討している、と伝えた。

 バイデン政権高官は同盟諸国との協議で、米中央情報局(CIA)が秘密工作を担い、国防総省が軍事支援を行うと説明しているという。

 その場合、米国は抵抗部隊に攻撃用兵器を供与、訓練も施す計画だという。部隊の構成などはなお秘密だが、ウクライナの兵士がすでに西側でゲリラ戦の訓練を受けている。

 このほど、ロイド・オースティン国防長官とマーク・ミリ-統合参謀本部議長はそれぞれ、ロシアのカウンターパートに電話して、ロシアが勝利しても、かつて旧ソ連がアフガニスタン侵攻後に遭ったのと同様に、抵抗部隊との熾烈な戦闘が続く、と警告した。

 ジェームズ・スタブリディス元NATO欧州連合軍最高司令官は、

「プーチンが大軍でウクライナに侵攻すれば、米軍およびNATO軍はインテリジェンス、サイバー、対空兵器、攻撃用海軍ミサイルなどをウクライナ側に援助する。占領されても、抵抗部隊を組織して、過去20年間の米国の経験を生かして彼らを武装し、訓練し、エネルギーを与える」

 と述べている。

 こうした新たなプロジェクトの立ち上げに当たっては、過去の経験が参考になる。1979年、ソ連軍がアフガニスタンに侵攻したのに対して、米国はサウジアラビア、パキスタンと組んで、世界から10万人を超えるムジャヒディン(イスラム戦士)を集め、武器を与えて、10年かけてソ連軍を倒した。

 それほど大規模な組織を米国はどのようにして形成できるのか。アフガニスタンでは負けたプーチン大統領は開戦に踏み切れるのかどうか。大きな賭けとなる。

 

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
春名幹男 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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