ザポリージャ原発占拠で浮かび上がるIAEAの「限界と新たな問い」

執筆者:秋山信将 2022年11月8日
エリア: ヨーロッパ
IAEAを使った欧米牽制もあり得てしまう[2022年10月11日、プーチン大統領と会談するIAEAのグロッシー事務局長(左)](C)AFP=時事 / Pavel BEDNYAKOV / SPUTNIK
ロシアに制圧されたザポリージャ原発にIAEAの専門家が常駐することで、ロシアによる「偽旗作戦」を防ぐなどの効果は期待できる。ただし、本来的に技術的専門機関であるIAEAには紛争抑止の任務は担えない。グロッシーIAEA事務局長の役割を期待する声も上がるが、それは正しい期待と言えるのだろうか。

   ロシア・ウクライナ戦争では核兵器の役割に注目が集まっているが、原子力発電所がロシア軍によって攻撃、占領されたことは、原子力関係者に大きな衝撃を与えた。これは、スリーマイル島、チョルノービリ(チェルノブイリ)あるいは東京電力福島第一の各原子力発電所で発生した事故とは異なり、武力攻撃により原子力安全、核セキュリティ(核物質防護)、そして保障措置が脅かされるという、前代未聞の事態だったからである。

   紛争下で原子力施設が武力攻撃にさらされる可能性については、確かに一定の認識はされてきた。また2001年の米国同時多発テロを受け、核テロのリスク対策も強化さたことは間違いない。しかし、いざウクライナにおいてチョルノービリが攻撃され、またザポリージャ原発がロシアによって占拠されるという一連の経緯の中で、IAEA(国際原子力機関)の役割にはおのずと限界があることが明らかになっている。

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カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
秋山信将(あきやまのぶまさ) 1967年生れ。一橋大学大学院法学研究科教授、一橋大学国際・公共政策大学院長。専門は国際政治。特に、安全保障、軍備管理・軍縮、不拡散、エネルギー安全保障。広島市立大学講師、日本国際問題研究所主任研究員、在ウィーン国際機関日本政府代表部公使参事官などを経て現職。著書に『核不拡散をめぐる国際政治 ―規範の遵守、秩序の変容』(有信堂高文社、2012年)、『NPT―核のグローバル・ガバナンス』(岩波書店、2015年、編著)、『日米安保と自衛隊(シリーズ日本の安全保障 2)』(岩波書店、2015年、共著)、『「核の忘却」の終わり―核兵器復権の時代』(勁草書房、2019年、共著)など。博士(法学)。
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