未来を変える!? 2022年「科学ニュース10選」

執筆者:五十嵐杏南 2022年12月31日
カテゴリ: 医療・サイエンス
エリア: アジア 北米
地球から6500光年離れた「わし星雲」の中にある星形成領域、通称「創造の柱」を映したハッブル(左)とウェッブ(右)の画像。ウェッブの画像では、星間ガスと塵の先端に生まれたばかりの赤い星が見える。(C)SCIENCE: NASA, ESA, CSA, STScI, Hubble Heritage Project (STScI, AURA) IMAGE PROCESSING: Joseph DePasquale (STScI), Anton M. Koekemoer (STScI), Alyssa Pagan (STScI)
話題になった科学ニュースの中から「銀河の超絶美画像」「最期の走馬灯」「昆虫サイボーグ」「音楽にノリノリのネズミ」など10個をピックアップ。科学で振り返る2022年。

 毎年、想像を超える新発見や技術の進展があることが、科学ニュースの醍醐味といえる。2022年に話題になった科学ニュースのうち、まずは「インパクト大」の衝撃ニュースを4つ紹介したい。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の「超絶美画像」大公開

 2021年12月、NASA(米航空宇宙局)の次世代望遠鏡である「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」が打ち上げられた。25年以上にわたって活躍した「ハッブル宇宙望遠鏡」の後継機で、開発に20年以上の歳月と1兆円相当を超える費用がつぎ込まれた一大プロジェクトだ。ハッブルが主に目に見える光を観察する光学望遠鏡だったのに対して、ウェッブは赤外線望遠鏡。限りなく遠い宇宙で、より暗い天体を観測するのに向いている。

 そんなウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた画像は、2022年7月以来数回にわたり公開されてきた。画像は、人類が見た中で一番古い銀河系や、二つの銀河系が衝突する姿、星が生まれようとしている姿など、天体学者も驚くようなもの、ため息が出るほど美しいものばかりだ。

 今後は今まで以上に遠くの天体の観測を通して、宇宙の昔の姿がより鮮明に浮かび上がることが期待される。さらには、赤外線で遠い惑星の大気を観測し、生命活動に適した環境があるかどうかも調査されていく。

5つの銀河が接近している「ステファンの五つ子銀河」の画像 (C) NASA, ESA, CSA, and STScI
 

月面探査を目指す「アルテミス計画」の初ミッション完了

 アポロ計画から50年を経て再び人類の月面着陸を目指す米国の「アルテミス計画」は2022年、最初の無人ミッションが完了し、有人飛行に向けて一歩前進した。

 11月に、4回の延期を経てようやく新型ロケットの打ち上げに成功。その後ロケットに搭載されていた宇宙船「オリオン」が26日間かけて月の周りで試験飛行を行い、12月に無事地球に帰還した。アルテミス計画の次のステップでは、実際に人を乗せて月の周りで試験飛行を行うことになっており、さらに次のステップでは2025年を目標に人類の月面着陸を目指す。

 その後は、月を周回する宇宙ステーションの「ゲートウェイ」を建設する構想がある。ゲートウェイは、月面や火星に向かう際の中継地点として使われていく予定で、日本人宇宙飛行士がゲートウェイに搭乗することや、日本政府が機器や物資を提供することがすでに合意されている。

宇宙船オリオンから撮影された月の画像(C)NASA

 

ヒト脳細胞をネズミに移植

 米スタンフォード大学の研究者たちが2022年10月、ヒトiPS細胞から作った脳細胞の塊をネズミの赤ちゃんに移植したところ、ネズミの脳がヒト脳細胞を受け入れて神経がつながったと発表。移植したヒト脳細胞はネズミの赤ちゃんの脳とともに成長し、脳全体の6分の1ほどを占めるまでに成長した。ヒト脳細胞を移植したのは、ネズミがヒゲから感知する刺激に反応する部位で、ネズミのヒゲに風を吹きかけるとヒト脳細胞が反応し、ネズミがヒト脳細胞を自分のものにした様子がうかがえる。以前もヒトの脳細胞が大人のネズミの脳に移植されたことはあったが、神経がつながったのは初めてのことだ。 

 研究者たちが移植した脳細胞の塊は「オルガノイド」と呼ばれ、再生医療で最も注目されている技術の1つだ。生体外でES細胞やiPS細胞から作られ、臓器のモデルとなることから、「ミニ臓器」と呼ばれることもある。今後はオルガノイドに栄養を届け、成長させる方法について研究が進むと見られている。

ヒトの血液からマイクロプラスチックが見つかる

 超微細の破片となったプラスチックごみ、いわゆるマイクロプラスチックは、エベレストの山頂や南極、深海など、人間活動が盛んではないところでも見られる。2022年3月には、人間の血液からも検出されたとオランダの研究者たちが発表した。中でも多く検出されたのは、飲料用ボトルに使われるポリエチレンテレフタレートPETや、使い捨て容器や包装に使われるポリスチレン由来のマイクロプラスチックだった。

 これまでも大人や乳児の排泄物からマイクロプラスチックが見つかっていたが、これらはあくまで吸収されずに消化器官を通過していったもの。今回の発見は、マイクロプラスチックが栄養分と同じように体内に吸収され、長く体に留まっていることを示唆している。マイクロプラスチックが健康に及ぼす影響はまだよく理解されておらず、今後の研究に期待が集まる。

 

 この他、2022年の科学ニュースには「ほっこりする」「ロマンがある」面白い発見もあった。その中から6つを紹介したい。

充電も無線通信も可能な「ゴキブリサイボーグ」

 理化学研究所の研究者をはじめとするチームが2022年9月、「サイボーグ化」されたゴキブリに極薄の太陽電池を実装することに成功したと発表した。「サイボーグ化」とは、生きたゴキブリにBluetoothを使った無線通信装置を背負わせ、指示した方向に動かすことができる技術である。通信装置は、ゴキブリのお尻の両側にある感覚器官を刺激し、右側を刺激するとゴキブリは右へ進路を曲げる。ゴキブリ本来の運動能力を損なわずに、再充電し無線通信で動きを操作できることがポイントだ。

 実はこうしたサイボーグ昆虫は、世界各地で開発されており、電池やセンサーの超小型化が進んだおかげで、研究のスピードが加速しつつある。ゴキブリの場合、災害現場など人が入りにくい場所での活躍が期待されている。昆虫型ロボットも開発されているが、今のところ生きた昆虫をベースとしたサイボーグの方がはるかに省エネなのだ。いつか、嫌われがちなGたちは益虫と呼ばれるようになるのか。活躍する姿を、進んで見る気にはならないだろうが……。

サイボーグ昆虫の概要と3Dプリントバックパック 提供:理化学研究所
 

まるで『ターミネーター』?「生きた皮膚」を持つ指型ロボット

 東京大学の研究者をはじめとするグループは2022年6月、「生きた皮膚」をまとった指型ロボットを開発したと発表した。従来のヒト型ロボットはシリコンゴムで覆うことで人間らしいやわらかい皮膚に似せていたが、今回指型ロボットを覆ったのは、実際のヒトの皮膚細胞を体外で培養して作った厚さ1.5ミリ程度の「生きた皮膚」だ。皮膚の一番外側の層の「表皮」とその内側の層「真皮」を再現しており、指型ロボットが関節を曲げても、培養皮膚は破れない。立体物を覆う培養皮膚を作る方法が分かったことも、この研究の大きなポイントだ。

「生きた皮膚」の強みは、自己修復能力にある。培養皮膚に傷をつけ、そのうえからコラーゲンのシートを貼ったところ、一週間ほどで傷が治った。ヒト型ロボットによく使われるシリコンゴムは、傷がつくと元に戻らず、またロボットの熱を逃しづらいといった課題がある。今後は、そうした課題が克服され、映画『ターミネーター』のような人間そっくりのロボットが誕生するかも?

「生きた皮膚」で覆われた指型ロボット(C)東京大学 情報理工学系研究科 竹内昌治研究室

 

ネズミも音楽にノリノリになる

 人間がリズムに合わせて身体を動かす能力は、ダンスの起源となり、社会集団の結束を強めることに貢献してきたと考えられている。ところがこの能力、どうやら人間特有ではないようである。

 東京大学の研究グループがクラシックやポップの名曲をネズミに聴かせ、体の動きや神経活動を計測したところ、ビートに合わせて動いていることがわかり、ときどき頭を動かすような仕草も観察された。

 さらに、人間と同様、ネズミにとっても、テンポが120~140bpmの音楽が一番ビートをとりやすく、音楽にノリやすいことがわかった。脳が音刺激に反応するメカニズムが、人間とネズミとで似ているからだと結論づけられた。

 微笑ましい研究だが、動物種を超えて音楽のリズムをとる脳の仕組みが観察された点で、学術的にも高く評価されている。音楽やダンスを可能にする脳の能力は、人間が人間らしい姿に進化するずっと前から、祖先たちが持っていたのかもしれない。

(C)東京大学 情報理工学系研究科 生命知能システム研究室

 

口の中で卵を孵化させる魚はたまに卵を食べていた

 キケンな外界から大切な我が子を守るために、口の中で卵を孵化させる魚やカエルがいるが、うっかり飲み込んでしまわないのだろうか。

 米・セントラルミシガン大学の研究者が2022年11月に発表した研究によると、うっかり飲み込むどころか、わざと食べている場合があることがわかった。彼らが、「シクリッド」と呼ばれる魚のメスを観察したところ、平均して40%の卵が食べられていた。

 シクリッドのメスは口内で卵を守る2週間の間、全く食事をしなくなるため、体重が減り、免疫力が弱まり、老化が進み、再度繁殖できる確率が下がってしまう。だが、口の中の卵を食べることで、魚流に育児ストレスを軽減していると研究者たちは考えている。母魚の肝臓の物質を分析したところ、卵を多く食べていた母魚たちから抗酸化物質が多く見つかったのだ。母魚にとっては、一旦子供を食べてストレスを軽減した方が長期的に繁殖に有利なのである。

赤ちゃんには「背中スイッチ」ではなく、「お腹センサー」がある

 抱っこして眠ったばかりの赤ちゃんをそーっと布団に寝かせた途端に起きて泣いてしまう現象は、まるで背中に起床ボタンがついているかのようであることから「背中スイッチ」と呼ばれる。ところが理化学研究所の研究者をはじめとする国際共同研究グループが行った研究によると、実はスイッチは背中にあるのではなく、お腹にあることがわかった。

 赤ちゃんは緊張や興奮の状態に陥ったときに起きるため、研究チームは心電図を使って心拍数を測り、緊張・興奮状態になるタイミングを記録した。その結果、背中がベッドと触れるとき(図C)には心拍数の急変化はなかったものの、赤ちゃんのお腹が親から離れる瞬間(図B、黄色部分)に心拍数が増えて起きやすくなることが判明した。

眠っている赤ちゃんをベッドに置くときの変化 提供:理化学研究所 
眠っている赤ちゃんをベッドに置くときは、体が離れ始めるときに心拍間隔が覚醒方向に下がる(B)。体の一部がベッドに着地するときは、既に心拍間隔が低い状態にある(C)。

 

最期の走馬灯は実在する!?

 いまわの際には人生を凝縮した「走馬灯」を見るという話をよく聞くが、偶然捉えられた脳のスキャンによって、この現象を裏付けるような根拠が得られたと、米ルイビル大学やエストニアのタルトゥ大学の研究者をはじめとするチームが2022年2月に発表した。

 スキャンが記録されたのは2016年のこと。カナダの病院で、87歳男性が頭部の手術を受けたが、術後にてんかんの発作が起きはじめたため、発作の兆候を探る脳スキャン装置をつけられていた。男性は脳スキャン装置をつけたまま心臓発作を起こし亡くなってしまったが、偶然、死の前後の脳の様子が記録されたのだ。研究者たちが心肺停止の前後30秒間に着目して分析したところ、記憶を呼び起こしたり、瞑想したり、夢を見たりするときに反応する部分が活性化し、学習や記憶と関連する脳波の一種である「ガンマ波」が増えていたことがわかった。一人の患者から得たデータなので、これだけでは一般化できないが……筆者はできれば、死の直前にたくさんの幸せな思い出に浸れると信じたい。

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執筆者プロフィール
五十嵐杏南 サイエンスライター。カナダのトロント大学進化生態学・心理学専攻(学士)。英国のインペリアルカレッジロンドンサイエンスコミュニケーション専攻(修士)。幼少期アメリカで触れた大自然や野生動物の姿が印象に残り、大学では生物多様性や環境保全について学んだ。一般市民の関心を掴む面で環境保全に貢献したいと思うようになり、科学コミュニケーションを始めるべく沖縄科学技術大学院大学へ。その後、大学院で学ぶ傍らNHK Cosmomedia EuropeやBBCでフリーランスのリサーチャーを経て、京都大学企画・情報部広報課 国際広報室の広報官を務めた。2016年11月から英文サイエンスライターとして活動。著書に『生き物たちよ、なんでそうなった!?: ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院/2022年)、『ヘンな科学 “イグノーベル賞" 研究40講』(総合法令出版/2020年)がある。近刊は『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社/2023年)
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