気候変動という「危機の乗数」と対峙する軍隊:なぜ自衛隊の戦闘機に「バイオマス燃料」が必要なのか

執筆者:長島純 2023年6月28日
6月12日、航空自衛隊はF15及びF2戦闘機に初めてバイオマス由来原料や使用済み食用油などを原料とする持続可能な航空燃料SAFを使用した 防衛省 航空自衛隊Twitter(@JASDF_PAO)より
食料や水を巡る争いを引き起こすなど、気候変動は地域を不安定化させる「危機の乗数」という性格を持つ。兵士のストレスや装備品運用上の障害につながれば、軍の任務達成にも負の影響が避けられない。米軍は気候変動を実存的脅威に位置付け、NATOも影響を可視化する取り組みが進む。軍隊の作戦行動に不可欠なエネルギー源と考えられてきた化石燃料を、バイオマス燃料に置き換る試みも始まった。

 

 国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)において、アントニオ・グテーレス(António Guterres)国連事務総長は、人類は「気候地獄(Climate Hell)へのハイウェイを猛進している」として、気候変動の影響の深刻化に強い危機感を示した。事実、2021年の夏には、米国、カナダ、南欧において気温が50℃前後まで上昇したことに伴う大規模な山火事が相次いで発生し、ドイツ、ベルギー、中国が未曾有の大洪水に見舞われるなど、世界各地で大きな被害が発生したことは記憶に新しい。

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執筆者プロフィール
長島純(ながしまじゅん) 元空将。1960年生まれ。防衛大学校第29期生。筑波大学大学院修士課程地域研究科卒(欧州安全保障)。ベルギー防衛駐在官(兼NATO連絡官)、統合幕僚監部首席後方補給官(J4)、情報本部情報官(J2)などを歴任。2013年より制服組の将官として初めて内閣審議官(危機管理担当)を務める。2014年より国家安全保障局(NSS)審議官を兼任。2019年8月幹部学校長を最後に航空自衛隊を勇退。専門は危機管理・軍備管理、主要著作:「弾道ミサイルの拡散問題と東アジアの安全保障」(『新防衛論集』1994年11月号、防衛学会)※平成6年度神谷不二賞受賞、「NATO変革の深化と日本」(『海外事情』2005年11月、拓殖大学海外事情研究所)、「朝鮮半島の地政学的リスク - 日米同盟へのインプリケーション -」(『エアパワー研究』(第5号)平成30年12月15日、航空自衛隊幹部学校)など。 NATO国防大学(将官・大使コース)、アジア太平洋安全保障研究センター(多国間安全保障協力コース)修了。
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