ChatGPTと朝まで語らう孫正義氏は「オープンAI」に出資するか

執筆者:後藤逸郎 2023年7月5日
エリア: アジア
約7カ月ぶりに株主の前で熱弁をふるった孫正義氏 (C)時事
「経営者としての、事業家としての人生」を省みて、大泣きをしていた孫正義氏が表舞台に帰ってきた。6月の株主総会では反転攻勢を高らかに宣言。その気炎の源は、「君はどう思うんだ」と朝まで問答を繰り返しているというChatGPTに他ならない。「後出しジャンケン」投資と言えばWeWorkの大失敗を想起せずにはいられないが、ソフトバンクグループ(SBG)はオープンAI社との協業に進むのだろうか。

 

「手元に5兆円を超える現金を手にしました。いよいよこれから反転攻勢の時期が近付いている」

 2023年6月に行われたソフトバンクグループ(SBG)の定時株主総会において、孫正義会長兼社長はこのように述べ、「反転攻勢宣言」として各メディアを賑わせた。

 孫氏が経営説明の場に姿を見せたのは、昨年11月の決算発表以来、じつに約7カ月ぶりだ。

 SBGは株式市況の低迷に伴い投資を抑制し「守りの経営」に徹していたが、孫氏の「宣言」によって再度「攻めの経営」に転じる、という見方もある。

 ロシアのウクライナ侵攻や米中対立などの地政学リスクが株式市場を冷やし、SBGの投資先の株価が低迷。それに伴い、SBGの決算も悪化している。23年3月期決算では9701億円の純損失を計上したが、22年3月期にも純損失1兆7080億円を出し、2年連続の赤字決算となった。SBGが最重要経営指標と位置付けるNAV(時価純資産)は、20年をピークに、ほぼ半分近くにまで減っている。

 こうした苦境が孫氏の「守りの経営」に繋がったわけだが、投資会社が投資を抑制してしのぐという本末転倒な状況に陥っていたとも言える。

 21年3月期に日本企業としては過去最大となる約5兆円もの純利益を叩き出したのが、今では遠い過去のようだ。

「反転攻勢宣言」の真意はどこに

 冒頭に示した孫氏の「反転攻勢宣言」は、そんな沈滞したSBGの雰囲気を一変させる、まさにカリスマ創業者ならではの一言だった。よくも悪くもSBGの浮沈は孫氏のカリスマに支えられていることを実感させられた。

 ただ、メディアコントロールにも長けた孫氏のこと、今回の「反転攻勢宣言」についても、額面通りに受け取るのはまだ早いだろう。

 孫氏は「反転攻勢」という言葉をウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領からイメージしていると思われる。そのゼレンスキー大統領も当初は反転攻勢の開始時期をぼかしていたし、開始を宣言して以降も、「ハリウッド映画のようにはいかない」と述べるなど、意図的にニュアンスを変えている。孫氏の発言もまた、彼一流のメディアコントロールの一環として読むべきだ。

 今回の株主総会では、孫氏の別の発言、いわゆる「大泣き告白」も話題を呼んでいる。

 孫氏は「反転攻勢」に触れた直後に、わざわざ「私事」と断わって、昨年10月ぐらいに「経営者としての、事業家としての人生」を省みて、「大泣きをしました」というエピソードを語った。

 孫氏は投資先の株価低迷により「守りの経営」を強いられ、経営者としての義務感に囚われた日々を送っていたという。だが、「何か違う、これでは空しい」と感じて何日間か涙が止まらなくなり、自分が本当にやりたいことは「人類の未来のアーキテクト(建築家)」だと認識したという。

 昨年10月は、先述したように孫氏が経営説明の場から姿を消す直前の時期に当たる。その後、孫氏は目先の経営から離れ「発明」に没頭し、「8カ月ぐらいで630件の発明をした」としている。

再び追求する「シンギュラリティ」の夢

 質疑応答では株主から孫氏に対して厳しい質問が寄せられた。

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執筆者プロフィール
後藤逸郎(ごとういつろう) 1965年富山県生まれ。ジャーナリスト。金沢大学法学部卒業後、1990年毎日新聞社入社。姫路支局、和歌山支局、大阪本社経済部、東京本社経済部、大阪本社経済部次長、週刊エコノミスト編集次長、特別報道グループ編集委員、地方部エリア編集委員などを経てフリーランスに。著書に『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』『亡国の東京オリンピック』がある。
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