【前回まで】赤字国債発行は異常事態、必要なサービスを提供するために税がある――土岐は、学生たちに正義を説いた。女子学生の一人が、防衛費は倍増で足りるのかと疑問を投げる。
Episode3 リヴァイアサン
3
講義が終わり、教授室にいるのは、宮城、土岐、そして周防の3人だけになった。
「それで、あと、どれぐらい持つ?」
缶ビールでひと息入れたあとで、土岐が周防に尋ねたのは、防衛省と主計局防衛係の攻防の決着時期の話だ。
「明日、合意に達しても不思議ではありません」
「松平さんが、そんな簡単に陥落するのか」
「さすがの“仕事人”も、泣く子と地頭[じとう]には勝てません」
意味が不明だった。
「おい、ミスター財務省、あんたアフリカで悪い病気もらってきたんじゃないの? 言っている意味が、全然分からないんだけど」
宮城が割り込んできた。
「あっ、すみません。泣く子は世論で、地頭は官邸です。もちろん、官邸が言ってるのは、5年間で倍にせよということですから、まずは1.2から1.3ぐらいになるのだと思いますが」
それでも1兆円から1兆5000億円を新たに捻出しなけばならない。
「ミスターはのんきだねえ。その程度の増額で、日本列島は守れるわけ?」
「ないよりましでしょ。千里の道も一歩からです」
「周防、ちゃかすな。真剣に言え」
「すみません。米軍支援が薄くなる代わりに、防衛費を増額というのは、ある程度理屈には合っています。しかし、防衛省は調子に乗っているし、要求は無駄ばかり。本当に有効な安全保障策とは言えないと思います」
「今朝の暁光新聞の記事でコメントしていた財務省関係者って、もしかしておまえだったのか」
周防の目が泳いだのを見て、土岐は確信した。
「そんな些末な話はどうでもいいからさ、ぶっちゃけ、日本を守るためにはいくら要るんだ、ミスター財務省」……
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