東南アジアのラオスでの出稼ぎ風俗に関する求人が、インターネット上で物議を醸している。実際にラオスに出稼ぎに出た女性からは、ラオスへの不法入国や賄賂請求などのトラブルが発生した事例も報告されている。ラオス北西部では近年、外国人を狙った人身売買や強制労働の被害が多発。日本の外務省は事件に巻き込まれないよう、注意を呼び掛けている。
6月、ツイッターではラオスでの出稼ぎ風俗の求人に関する投稿が相次ぎ、話題を呼んだ。
投稿された求人には「60分30000円~ 、15万保証(日保証)」「客層 中国の富裕層」「合法ソープの為、リスク無し」などの条件が並び(実際はラオスでの売春は違法)、出稼ぎ風俗に関心を持つ女性たちからのリプライも散見された。
一方で、同時にラオスでの出稼ぎ風俗の危険性を指摘する投稿も確認された。2022年に出稼ぎ風俗に行ったAさんによると、日本からラオスに行くためにまずタイへ渡航。夜間にタイの国境沿いにある川を船でわたり、非正規ルートでラオスへ不法入国したという。当初はブローカーから、そうした不法な手段で入国することは知らされていなかった。
Aさんは「現地には誰も味方なんていなくて、(不法入国時などの)賄賂の請求額も何百万だったし、これがトラウマで海外出稼ぎをやめました」と投稿している。
外務省「邦人保護の観点から情報収集」
日本の外務省は4月、「ラオスの危険情報」を更新し、「高額な報酬等の好条件を提示してラオスに渡航させた後、実際には自由を拘束し違法活動に従事させるという、外国人を被害者とする求人詐欺が多発しています」「ボケオ県の経済特別区における求人詐欺に関しては、特にSNSや知人等からもたらされることが多く、こうした経路により求人情報を得た場合は、上記の情勢を十分理解し、騙されないように十分注意してください」と説明。
さらには、「こうした状況に陥った場合、治安当局による救出や解決が容易ではない事情があります」と注意を呼び掛けている。
外務省の南東アジア第一課への取材によると、ここでいう違法活動には、出稼ぎ風俗や「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺が含まれている。担当者は、「これまでのところ邦人被害に関する情報には接していないが、邦人保護の観点から、必要な情報収集を行っている」と説明した。
日本で風俗「稼げない」
上述のラオスでの出稼ぎ風俗のように、ここ数年はインターネット上における海外での出稼ぎ風俗に関する求人情報が増加傾向にある。
その理由について、アジア各国のキャバクラで勤務経験があり、国内外の夜の街を取材しているフリーライターのカワノアユミ氏は、「日本では以前よりも風俗店で稼げなくなったためだ」と指摘する。
「パパ活アプリの参入によって、風俗店に行くよりも安く女性と性行為ができるようになった。新型コロナの影響もあり、風俗店に客が戻ってきていない。そうした状況下で、高収入といった条件に惹かれ、海外での出稼ぎ風俗に関心を持つ女性が増えているのではないか」(カワノ氏)
ラオスにある「事実上の中国の植民地」
法整備が未発達なラオスの状況も、こうした違法な出稼ぎ風俗を呼び寄せる原因となっている。中でもタイと国境を接しているボケオ県で、中国資本により開発されたゴールデン・トライアングル経済特区(SEZ)は、中国人を中心とした犯罪の温床となっているとして懸念が高まっている。
米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、同SEZを「事実上の中国の植民地」と表現し、売春斡旋やオンライン詐欺、マネーロンダリング、麻薬の密輸などのさまざまな犯罪が日常的に行われていると指摘する。SEZが設立された07年から22年8月までに、人身売買の被害者が1700人近く救出されたとしている。
RFAの6月30日付の記事によると、SEZ内では銃撃事件も発生しており、地元住民から治安に対する心配の声が上がっている。ある住民は、「SEZ内では銃がケーキのように売られている。身の安全を保てるかどうかは、金と権力を持っているかで決まる」と不安な胸中を吐露している。
ボケオ県当局はRFAに対し、「銃撃事件があったことを把握しているが、ラオスの法律がほとんど及ばない中国の支配地域には立ち入ることができない」と説明。エリア全体が無法地帯になっている実情を明らかにしている。
コロナで被害者増加
新型コロナの影響で経済的に困窮した現地の女性が、同SEZ内の性風俗店に売り飛ばされるケースも多発している。筆者が22年8月にラオスの首都ビエンチャンを訪問した際、中心地の多くの店でシャッターが閉まっており、街中は閑散としていた。当時取材した政府関係者からは、「コロナの影響で観光収入が激減し、住民の暮らしは困窮している」と聞いていた。
米国務省の人身売買に関する報告書(23年版)によると、そのような状況下で生活苦に陥った女性らが、SNSで見た「高給、食事代、住宅家賃無料」といった好条件の求人に飛びつき、結果として人身売買や強制労働の被害に遭っているという。
同報告書によると、被害者はラオス人にとどまらず、タイやミャンマー、ベトナムなど東南アジアを中心とする外国籍にまで及んでいる。米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカの報道(22年10月10日)では、こうした強制労働の現場から逃げようとすると暴力を振るわれたり、電気ショックに晒されたりし、被害者は身体的、精神的に追い詰められ、逃げ出せないように厳重な監視下に置かれていることが分かっている。
ラオス国内では周知されず
一方、ラオス国内全体でみると、ゴールデン・トライアングルSEZでの人身売買や強制労働の実態が国内で広く周知されているとはいえないようだ。
日本貿易振興機構(JETRO)ビエンチャン事務所の山田健一郎氏は、「現地語ではボケオ県の人身売買などの問題についてほぼ報道されておらず、多くのラオスの人にとっては、僻地でひそかに行われていることであって、関心は少ないと感じる」と指摘する。
ラオス政府関係者も取材に対し、「ラオスの一般市民の間では、ボケオ県で何が起きているかよく知っている人は少ないだろう」と話す。
現地住民でも何が起きているか把握できていない状況下、外国人がトラブルに巻き込まれれば、問題解決が容易ではないことは想像に難くない。SNSで広まる魅力的な求人条件に惑わされず、冷静な判断が求められている。
【参考URL】
◎外務省のラオス危険情報
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2023T035.html#ad-image-0
◎RFA記事
https://www.rfa.org/english/news/laos/bokeo-shooting-06302023150522.html
https://www.rfa.org/english/news/laos/human-trafficking-12192022185054.html
◎米国務省の人身売買報告書
https://www.state.gov/reports/2023-trafficking-in-persons-report/laos/
◎ボイス・オブ・アメリカの記事