日本人居住者ともトラブル――カンボジアで相次ぐ日本人特殊詐欺グループの摘発

執筆者:泰梨沙子 2023年10月5日
カテゴリ: 社会
エリア: アジア
事件の摘発後、看板が下ろされた日本食料理店(左)。特殊詐欺グループの拠点に毎日食事を配達していた(写真以下すべて筆者提供)
今年に入り、カンボジアで日本人の特殊詐欺グループが相次いで摘発されている。日本の犯罪組織が東南アジアに拠点を移しており、現地警察との癒着の噂も絶えない。ここ数年は、現地に住む一般邦人への脅迫や暴行もたびたび発生し、日本大使館は注意を呼びかけている。

 カンボジアで日本人の特殊詐欺グループの摘発が相次いでいる。背景には日本での厳しい取り締まりから逃れるため、犯罪組織が法整備の脆弱な東南アジアに拠点を移していることがある。まだ摘発されていない拠点が複数ある可能性も浮上している。

 カンボジアでは、今年4月に南部のリゾート地を拠点とした特殊詐欺グループとみられる日本人19人が日本に移送されたほか、5月には北部のタイとの国境の町で7人が、9月には首都プノンペンで20人以上が現地当局に拘束された。

 摘発された拠点からは、携帯電話やパソコン、詐欺の手口が記載されたマニュアルなどが押収されている。在カンボジア日本大使館が出している注意喚起によると、こうした詐欺の要員はSNSを通じ、「短期間で高収入」をうたい文句に集められる。空港に到着後にパスポートを没収、監禁され、強制的に詐欺行為に加担させられるという。

 さらに現地を取材すると、これまで当局に摘発された特殊詐欺グループの拠点のほかにも、複数の拠点がある疑いが出てきた。

今回摘発された特殊詐欺グループの拠点

 9月に摘発された特殊詐欺グループの拠点には、プノンペンにある日本料理店から食事が配送されていた。関係者によると、毎日弁当150個以上が作られ、この拠点のほかにも届けられていたという。

 こうした動向が手掛かりとなり、9月の摘発につながったが、関係者は「今回拘束された人数を差し引いても、プノンペン中心部からデリバリーができる範囲で、さらに100人以上が詐欺に加担している可能性がある」と話す。

監禁・暴行、不審死も

 この料理店は日本の暴力団と結びつきがあるとされ、以前よりトラブルが取り沙汰されていた。

 関係者は、「2020年にはこの店の料理人が人間関係のトラブルに巻き込まれ、監禁・暴行の被害を受けていた。料理人はその後、隙を見て日本大使館に逃げ込み、日本に帰国できたようだ」と話す。

 さらには、この店の別の料理人も突然死するなど、不可解な事件が起きている。現地在住の邦人からは「入れ墨のある“いかにも”といった日本人が働く店だったので、行くのを避けていた」という声もあがる。事件の摘発後は、店のオーナーが姿を消し、現在は看板が下ろされた状態になっている。

 特殊詐欺グループは、背後に日本の暴力団がいるとみられ、詐欺の収益が暴力団の資金源になっている可能性が高い。

 カンボジア日本人会の小市琢磨会長は「2020年頃からカンボジアに日本の反社が本格的に進出しはじめた。特にコロナ禍では、現地在住の一般の日本人が、街中で反社とみられる男らから脅迫や暴行の被害を受ける事件も散見されるようになった。日本大使館から注意喚起が出てからは、そうしたトラブルは減少している」と話す。

 在カンボジア日本大使館は22年6月、「邦人同士のトラブルに関する注意喚起」を出した。その中で、「最近、当館に対して在留邦人や邦人短期渡航者から、当地において邦人同士の間で経済的被害や身体的被害を伴うトラブルに巻き込まれた旨の相談が寄せられています」と記載。反社による犯行を暗に示唆し、在留邦人に注意を促していた。

日本警察も取り締まり強化の方針

 発展途上にあるカンボジアでは法整備が脆弱であるほか、警察の間で汚職が蔓延しており、犯罪組織との癒着が懸念されている。

 SNSでは、日本の暴力団と結びつきがあるとされる人間が、カンボジアの政府関係者と写真撮影をした様子が投稿されているケースも見られ、「反社がカンボジアの権力者に取り入って人脈を形成し、犯罪しやすい環境を整備しているのではないか」(現地住民)との不安が広がっている。

 別の在留邦人からは、「日本の印象を悪化させないためにも、国をあげて犯罪組織の壊滅に向けた取り締まりを強化してほしい」との声も聞こえる。

 日本側はこうした事態を受け、海外での犯罪組織の摘発に向けて、関係各局との連携を強化していく考えだ。

 谷公一・国家公安委員長(当時)は4月の参議院決算委員会で、オレオレ詐欺などの特殊詐欺について今後の対応に言及。

 「警察としても、関係省庁、関係団体等と連携し、外国当局、つい先日もカンボジアで事件が発覚したが、更なる連携強化を図りつつ、緊急対策プランを踏まえた各種対策をしっかりと推進してまいりたい」と述べた。

 さらに具体的な対策として、「犯罪の首謀者や指示役も含めた犯罪者グループの実態の解明、そして検挙、また犯行利用電話の利用制限等の犯行ツール対策、さらには特殊詐欺事件の背後にいると見られる暴力団等に対する多角的な取り締まりなどを更に推進していくよう指導してまいりたい」と決意表明している。

 SNSを通じて犯罪が身近になる一方で、国を超えた組織犯罪への取り締まりも厳しさを増していきそうだ。

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執筆者プロフィール
泰梨沙子(はたりさこ) 2015~21年、アジアの経済情報を配信する共同通信グループ系メディアで記者を務める。タイ駐在5年を経て、21年10月に独立。フリージャーナリストとしてタイ、ミャンマー、カンボジアの政治・経済、人道問題について執筆している。
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