Weekly北朝鮮『労働新聞』 (26)

対露関係、人民軍重視が鮮明となった金正恩の動静(2023年8月13日~8月19日)

執筆者:礒﨑敦仁 2023年8月21日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
江原道安辺郡の農場を視察し現地指導する金正恩総書記。随行したのは金才龍書記(左端)、金徳訓総理(右から2人目)、趙甬元組織担当書記(右端)[「わが民族同士」HPより]
プーチン宛祝電と解放塔への花輪贈呈の報道は、対ロシア関係重視の表れか。一方金正恩の動静は、軍需工場視察から台風被災現場視察、農場での現地指導と多岐にわたったが、通底するのは人民軍重視の姿勢だ。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記の動静報道が引き続き増加傾向にある。8月15日付の1面トップは、「祖国解放78周年」に際して金正恩がウラジーミル・プーチン露大統領に宛てた祝電の紹介であった。金正恩は、「赤軍の将兵が国際主義偉業に対する崇高な使命感を抱いて人類の運命を脅かしていたファシズムを撃滅したのに続き、日本軍国主義に反対する聖戦に勇躍奮い立ってもう一つの輝かしい勝利を収めることで、世界人民の民族解放偉業に巨大な寄与をしました」と称えた。さらに、「共同の敵に反対する峻厳な日々に両国の軍隊と人民の間に結ばれた戦闘的友誼と団結は、朝露関係の誇らしい伝統」になっているとして、「今日、帝国主義者の横暴な専横と覇権を粉砕するための闘争で自らの不敗性と威力を余すところなく誇示しています」と述べた。プーチンに付された尊称は、「閣下」から「同志」へと格上げされている。

 昨年同日付の1面トップもプーチン宛の祝電だったが、一昨年は「偉大な金日成(キム・イルソン)同志の祖国解放業績を社会主義建設の新たな勝利として輝かせていこう」と題する社説がトップで、その下に祝電が掲載された。2020年以前の第1面も、金日成の業績を称える社説がトップを飾り、その下にプーチン宛の祝電という形式が定例化していたことに鑑みれば、「祖国解放」という金日成の最たる業績を差し置いてロシアとの関係を重視するのは一時的なものであれ大きな変化と言える。……

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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