厚労省「3歳までテレワーク努力義務」に不安の声――その誤解とさらなるテレワーク促進へのヒント

執筆者:玉川絵里 2023年9月10日
タグ: 日本
エリア: アジア
仕事と子育ての両立支援として、さらなるテレワーク推進は不可欠だ(写真はイメージです)
厚労省が「3歳までの子どもを育てる従業員がテレワークできる仕組みを企業の努力義務とする」ことを検討していると発表した今年5月、SNSを中心に批判の声が噴出した。しかし、その批判内容は誤解に基づくものが大半だった。一方、新型コロナ「5類移行」後はオフィス回帰の傾向が強まっている。生産性を担保し、不平等感を生まない「働き方改革」のヒントを探る。

 厚生労働省(以下、厚労省)が「3歳までの子どもを育てる従業員がテレワークできる仕組みを企業の努力義務とする」よう検討していることが2023年5月16日に報道され、大きな話題となりました。

 特にSNS上では「乳幼児を自宅保育しながら働けということか」「コロナ禍の保育園休園時に共働き家庭がどれほど大変な思いをしたのか政府はわかっていない」「テレワークできない仕事もあるのに」などの誤解に基づく不安の声も少なくありませんでした。これが誤解であることを解説しつつ、その背景や今後の期待について、厚労省の資料も交えて見ていきます。

「3歳までテレワーク」への誤解が広まった背景

 誤解されていたのは、主に下記のようなポイントかと思います。

・「3歳までテレワーク」の意味が、「保育園に預けずに、自宅で子どもを見ながら働く(在宅勤務with KIDS)」という意味だと思った人が多かった

・週5日のフルテレワークが努力義務になると誤解した人が多かった

・テレワークできない職種/企業についての配慮がないと感じた人もいた

 これはいずれも、SNS上で広まった新聞記事のタイトル「子供3歳まで在宅勤務、企業の努力義務に 厚労省」だけを読んで反応してしまった人が多かったことが要因ではないかと考えています。

 記事の本文まで読めば、

・厚労省はあくまでも「保育園に預けたうえでのテレワーク」を想定していること

・テレワークの頻度(週に〇日)を定めるものではないこと

・「テレワークが難しければフレックスタイム制度の活用などを求める」と記載されており、テレワークが難しい職種や企業も想定されていること

 がお分かりいただけたかと思います。

 しかし、こうした不安の背景には、2020年4月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて多くの保育園が休園や登園自粛要請を決定し、感染症の不安の中、慣れないテレワークをしながら自宅で乳幼児を保育することとなった保護者たちの大変な経験があったことを忘れてはいけません。

 三菱総合研究所では2020年8月に「コロナ禍での在宅勤務において親子のこころの健康を保つには」と題した自主研究レポートを公開し、育児を伴う在宅勤務により親に生じたストレス等を整理しています。思うように仕事ができないことのストレスや、子どもに対して十分なケアができないストレスなどを抱えた親たちは心身ともに疲労を蓄積し、大きな社会問題となりました。

 さらに、「テレワーク」や「在宅勤務」といった用語が混同されがちですが、厚労省は「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」にてテレワークを以下の3つに分類しています。

(1) 在宅勤務:労働者の自宅で業務を行う

(2) サテライトオフィス勤務:労働者の属するメインのオフィス以外に設けられたオフィスを利用する

(3) モバイル勤務:ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務を行う

 今回の「3歳までの子どもを育てる従業員がテレワークできる仕組みを企業の努力義務とする」検討はあくまでも「テレワーク」の推進であり、在宅勤務だけでなくサテライトオフィス勤務やモバイル勤務も含んだ概念であることが分かります。

テレワーク利用が保育園入所要件の不利にならないように

 さて、6月19日に公表された厚労省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」では「子が3歳になるまでの両立支援の拡充」としてテレワークの活用促進の考え方と具体的な措置が説明されています。

 ここでは、テレワークはあくまでも「通勤時間が削減されること」により仕事と育児の両立に資するものであり、当然ながら就業時間中は保育サービス等を利用して業務に集中できる環境が必要である、と明記されています。多くの人が懸念の声を上げた「自宅で子どもを見ながらの在宅勤務」は想定されていません。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
玉川絵里(たまがわえり) 株式会社三菱総合研究所 未来共創本部 研究員。2012年東京大学法学部を卒業し、同年三菱総合研究所入社。コロナ禍における親子のこころの健康に関する検討チームメンバー。情報発信実績としては、『イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧(日・英)』(2022年、三菱総合研究所)や、『「共領域」からの新・戦略 イノベーションは社会実装で結実する』(2021年12月、ダイヤモンド社)など。
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