難民申請4回却下でも解体業を経営する「川口市のクルド人」の本音(後編)|「なぜ難民が貧乏でなきゃいけないんだ!」
インタビューを続ける中でA氏は、物騒な発言をした。
「入管の人間を3回殴ったことがある。血だらけにしたこともあるし、捕まったことはないが。今はいいんだけれど、僕らを人間として見ていなかった。娘が5歳の時に、『この人本当にあんたのパパなの』と5歳の子に聞いた。外にいる日本人と入管の日本人は同じ日本人かと思う位だ。(入管職員が)お父さんの耳を引っ張ったんだよ。俺、入管職員ぼこぼこにした」
こうした発言に対しては、「入管職員も法律を守らせねばなりませんよ」とややたしなめるように言うと、こんな答えが返ってきた。
「法律の問題じゃない。法律は法律、それはわかる。けど、人間という存在の感覚がない。入管にもいい人がいて、子供のころから知っているよ。入管が古い人から片付ける、となると大問題になる。難民を日本が2回の申請で追い出しますと言ったら世界はどうなる。うちは税務署来たことないし、それなりに税金を払って、近所とも仲良くやっている」
「いずれは老人ホームも考えている」
トルコに送還されると、政治的迫害を受けるというのはどの程度当てはまるのか。
「そういう人もいるがそうでない人もいる。みんながみんなそうではない。うちの兄貴はトルコに帰った時に捕まった。1カ月入れられた。5、6年前まで来た人は政治問題はあった。今はトルコ人の方が多い。みんなが一緒にされている」
A氏はこれからどう生きていこうとしているのか。
「うちは解体以外のこともしたい。土地の造成とか、生木の受け入れ、ウッドチップを作る仕事の方が環境にいいし見た目もいい。解体事業はやめないけど、本業は解体という風にはもっていきたくない。業者が多すぎて、教えられた法律とは無関係にみんなやっているし、アスベストも厳しくなっているが、その基準を守らない。昔の日本人の業者はブローカーになっていて、外国人は皆その下でやるから、基本的に安くなっている。
クルド系の解体業者は、お金稼ぐことがよくわかっていないから、普通より少し上回ればいいだろうという考えの人が多い。100万円の仕事で40、50万円稼がねばならないところ、5万残ればいいくらいの感覚でやっている。ちゃんとした会社はやっていけない。社会保険、給料を払うとなると、それはできない。日本人のブローカーが誰でも仕事をやらせてしまう。不法投棄も増えているし、ブローカーが安くやらして、その中で儲けるにはそうした手しかないんだ。
そう考えると解体は無理。うちは基本的に元請けからしかやらないし、下請けから受けてやらない。そうすると仕事がとりづらい。普通にやっていたら、とてもじゃないけどやっていけない。
事務所の裏の2000坪くらい土地も買っている。いずれは老人ホームを考えている。難民申請者でも家を買っている人多いよ。僕が日本人だったらもっとすごいことができる。商売はいっぱいある。トルコを見ているとどこに何が足りないとか、中東もイラクもシリアもわかるし。
日本はまじめにやれば返ってくる。我々の国はそうじゃない。まじめにやったって返ってこない。痛い目に遭うし。
クルド人としてのルーツはもうないね。今はここのルール、マナーがあるから、クルドの生き方はしない。ここは日本だから。希望したから。自分が育った苦労したクルド人の歴史は忘れないが。
今日ビザを取れたら、明日は日本の国籍を取ります。退去強制令書も食らっているから難しいことはわかっている。娘が10歳になって、取った人がいる。子供を当てにビザをとれることがあるかもしれない。
日本で死んでいいと思っている。日常生活は日本語。かみさんには、『何で子供にクルド語教えないのか』と言われているが、クルド語、トルコ語を話していいことないし、いい思いをしないし。子供をかわいがっている時も日本語が出ちゃうから」
以上がインタビューの抜粋である。
A氏らの難民不認定処分等取消訴訟は最高裁で敗訴
関係者によると、A氏は最初の来日後、退去強制令書の発付を受けて、いったん帰国した。A氏の兄は日本で開かれたネウロズ(クルド人の新年の祭り)に参加している写真に、クルド人の独立国家樹立を目指すクルド労働者党(PKK)のシンボルが写っていて、本国に帰った時、それを根拠に逮捕、起訴された。2回目の入国の際、A氏は正規のパスポートだったが、兄は他人名義のパスポートで入国した。そのことが上陸審査で判明し、A氏も兄も退去命令を受けたが、そのまま留まり続けた。
A氏は2回目の来日以降、兄がトルコで身柄拘束されたので、家族である自分にも危険が及ぶ恐れがあるなどとの理由で難民申請をした。兄もA氏も難民請求は不認定となり、2007年に退去強制令書が出された。2011年、父母、兄、姉、本人など一家6、7人が原告となり、東京地裁に難民不認定処分等取消訴訟を提起したが、2013年に最高裁で上告棄却となった。
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