チンパンジーが人間のような「戦術」を用いる様子を確認

2023年11月26日
タグ: 野生生物
エリア: アフリカ
チンパンジーの集団が、遠くにいる他のチンパンジーの音を聞く様子[アフリカ西部コートジボワールの森で、タイチンパンジープロジェクトの研究の一環として撮影(以下写真も同じ)](C)Roman M. Wittig/Tai Chimpanzee Project/REUTERS
学術誌「PLOS Biology」に掲載された論文は、研究チームがチンパンジーの群れ同士が抗争状態のときに、高台を戦略的に使う様子について発表した。人間は古くから軍事戦略で高台に登り敵の様子を偵察してきたが、研究チームによると、チンパンジーが同様に高台を活用していることが記録されたのは今回が初めてになる。

[ロイター発]国境の危険な地域で、約30人の部隊がパトロールのために岩だらけの丘を登り、様子を偵察する。聞こえてくる音から敵と近すぎることを悟った部隊は、撤退することに。勝ち目のない戦いに挑むべき理由はない。

 こうした状況は、人類の戦争の歴史の中で何回も繰り返されたはず。だがこれは、人間ではなく、チンパンジーの話。西アフリカ最大の雨林保護地域であるタイ国立公園(コートジボワール)に暮らすチンパンジーの間で観察された行動だ。

 11月3日に学術誌「PLOS Biology」に掲載された論文は、研究チームがチンパンジーの群れ同士が抗争状態のときに、高台を戦略的に使う様子について発表した。

 研究はタイ国立公園で、隣り合わせに暮らす野生の西洋チンパンジーの2つ集団を3年間、毎日観察し行われたもの。チンパンジーたちは高台から敵を偵察した際に得られた情報をもとに敵地に侵入するかを判断し、直接対立するリスクが低いと敵地へ侵入する傾向があった。人間は古くから軍事戦略で高台に登り敵の様子を偵察してきたが、研究チームによると、チンパンジーが同様に高台を活用していることが記録されたのは今回が初めてになる。

 ケンブリッジ大学の自然人類学者で論文筆頭著者のSylvain Lemoine氏は、「この結果は、チンパンジーがどこへ、いつ行くべきか予想し、集めた情報に基づいて安全に行動するための高度な認知能力と連携する能力があることを示している」と述べた。

 チンパンジーの集団間の抗争は頻繁に起こり、ナワバリの境界が重なり合う区域で発生する場合もある。

「チンパンジーは食物資源のある空間を巡って争う。大きなナワバリには、集団内の抗争を減少させることに加えて、メスの繁殖率が上がるというメリットがある」とLemoine氏は言う。

 この研究で観察された2つの隣接する集団は、40〜45個体ほどの規模で、成熟したオスが5〜6個体、成熟したメスが10〜13個体、残りは子どもから構成されていた。チンパンジーの集団では、オスはメスによりも優位な立場にある。

「チンパンジーは極めてナワバリ意識が強い動物だ。彼らは定期的にパトロールをし、個体同士が連携しながらナワバリの境界を徘徊する。そして暴力的で危険、かつ緊張感の高い抗争に挑む。集団同士の対立は、遠くから鳴き声を交わす、もしくは視覚的または物理的に接触し、噛みついたり、殴り合ったり、追いかけたりする形をとる。殺し合いも一般的で、年齢層を問わずに標的となる」とLemoine氏は言う。……

カテゴリ: 医療・サイエンス
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