
[エルサレム発/ロイター]ハマスに拘束されていた人質の最初の一陣が11月24日に解放された時、ベンヤミン・ネタニヤフ首相はイスラエル国防省の建物の中でその様子を見守った。一方、ネタニヤフのライバルであるベニー・ガンツは、テルアビブ広場で人質の家族たちに取り囲まれていた。
元国防相で野党党首のガンツは、10月11日に結成された戦時内閣に名を連ねている。カメラの前では、自分が人質家族と会う時は撮影しないでくれと頼んでいたが、後日公開されたのは、大勢の前で人質家族を抱きしめている写真だった。
10月7日のハマスによる大規模攻撃と侵入を防げなかったことへの激しい非難を浴びるネタニヤフは、表舞台を避けながら、2正面の戦いを続けている。ハマスとの戦争と、自らの政治生命を懸けた戦いだ。
74歳のネタニヤフは、長らく安全保障面でのタカ派イメージを保ってきた。対イラン強硬派で、ユダヤ人を二度とホロコーストに遭わせないと誓うイスラエル軍の支持を受けてきた。ところが、イスラエルの75年の歴史上単独のものとしては最悪の攻撃を許してしまった。
イスラエルの人々は、ハマスの武装兵がガザから侵入し、1200人を殺害し、240人以上を人質にとって、イスラエル全体が戦争に引き摺り込まれるのを防げなかったとして、ネタニヤフ内閣の閣僚たちを非難している。少なくとも3人の閣僚が、公衆の面前に出た際に嘲笑の的になったり、コーヒーをぶちまけられたり、病院への見舞いを断られるなど嫌がらせを受けた。こうした出来事は、ハマスの大規模攻撃を許す失態を演じた政府に対する人々の怒りがどれほどのものかを示している。11月終わりの週末、首相府はネタニヤフが国防省の指揮所にいるビデオを公開。11月25日にはネタニヤフがガザを訪れ、ヘルメットに防弾チョッキ姿で兵士や指揮官と話す姿を公開した。
「ビビ」の愛称で知られるネタニヤフはこの戦争を利用して、すでに3年半かかっている汚職容疑の裁判をさらに引き伸ばし、いずれ行われる「ネタニヤフの指揮下のイスラエルはなぜハマスの不意打ちを喰らったのか」という国による審査を先送りしようとしている。
軍幹部と並ぶネタニヤフは、この戦争下での自らの行動と人質の解放によって評判を取り戻したいと願っているのかもしれない。一方で、攻撃を受けたことの責任をとることを拒み、珍しく開いた記者会見で進退を問われても取り合わなかった。……

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