岸田文雄首相は、G7広島サミットの準備の意味もこめて、4月末からのGW期間に、アフリカ4カ国を歴訪した。インド洋に面するケニアとモザンビークを訪問した際には、それぞれの国と共同で発表した声明において、日本がアフリカ諸国とともに「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を推進することが、謳われた。
しかし、そのわずか約2週間後、実際にG7広島サミットが開催されたときに発出された「G7首脳コミュニケ」では、アフリカは忘れ去られた。「G7首脳コミュニケ」では、「FOIP」の重要性が強調され、「FOIP」の説明に一項目分のスペースがあてられた。それにもかかわらず、そこで具体的に言及されたG7諸国の「パートナー」は、「東南アジア諸国連合(ASEAN)及びその加盟国を含む地域のパートナー」と「太平洋島嶼国」だけであった。
果たしてアフリカ諸国は、日本が構想する「FOIP」のパートナーなのか、否か。
筆者は、紛争分析・国際平和活動の研究を専門にする国際政治学者である。アフリカは、頻繁に訪れて、実情を把握し、人的つながりを維持開拓する対象である。先月11月にも、国際会議の出席から、国際機関・政府機関の訪問、紛争後地域の実情調査などで、約1カ月近くかけて、アフリカ6カ国を歴訪した。
そこであらためてアフリカのダイナミックな動きを感じた。同時に、関与・支援の実績がそれなりに蓄積されているにもかかわらず、日本の国力の地盤沈下もあって、関係構築の方向性が見定まらない自国の存在の希薄さも感じた。
今後、数回にわけて「アフリカとFOIP」の切り口で『フォーサイト』に寄稿していきたい。アフリカの実情分析を試みるとともに、日本のアフリカ外交のあり方について、問題提起を行うためである。もっとも、筆者の専門外の経済問題などについてあえて論評をすることなどはない。アフリカ地域の専門家を気取りたいわけでもない。あくまでも紛争問題に焦点をあてて、平和・安全保障に関する政策に注意を払いながら、それが日本外交における「アフリカとFOIP」にどのような視座を与えるのかについて、考え直してみることを目指す。
日本にとってのアフリカとは何か
日本にとって、アフリカが、米国やアジアより重要になることはないだろう。他方、世界の有力国は、少なくとも日本よりはアフリカに関心を払って、戦略的な関与を進めている。日本もまた、どれだけ関与するかという量的な程度にかかわらず、どのように関与するかという戦略的な姿勢について、アフリカへの考察を深めておくべきだ。
何と言っても自国の外交政策の大枠を表現する「FOIP」のような理念の表明において、アフリカの位置づけが見定まっていないという事実は、由々しき事態である。外務省の現地大使館・アフリカ課がお世話をして首相がアフリカ諸国を訪問する際には、リップサービスで「FOIP」を共に謳いあげる。ところが首相は、帰国すると、そのことは忘れてしまう。そして「FOIP」が、外務省アジア太洋州局が仕切る案件だと理解されてしまえば、「FOIP」が同局の官僚的所掌範囲から抜け出ることはなくなり、万が一にもアフリカなどに通じていくことはなくなる。
岸田政権は、外遊のたびに新規援助額を発表するスタイルを持っている。たとえば現在であれば、岸田首相や上川陽子外相がガザ危機をめぐって周辺国を歴訪し、それぞれの訪問国で、いくらいくら援助する、といったことを述べて帰る。本年のアフリカ諸国歴訪の際にも、総額約5億ドル(約728億円)の援助を約束して、帰国した。これによってG7サミットに向けた「グローバル・サウスとの連携」が強化されたということだったらしい。しかしこれでは、外交政策の指針である「FOIP」にアフリカが入ることなどは、決して起こらない。
アフリカに援助が不要なわけではなく、日本が依然として世界の有力な援助提供国の一つであることも事実だ。しかし日本一国でできることは限られており、しかもその規模や重みは縮小していかざるをえない。
人口約1億2500万人の日本に対して、アフリカ大陸全域の人口はその10倍以上の約14億人である。しかも日本の人口は縮小し続け、2050年には1億400万人、2100年には7400万人にまで縮小すると予測されている。これに対して、アフリカ大陸の人口は2050年には24億人以上、2100年までに39億人に達して、世界人口の3割以上を占めるようになると予測されている。今世紀末にアフリカ大陸の人口は、日本の50倍以上になるということだ。
現在はまだ日本の国内総生産(GDP)約4.2兆ドルは、アフリカ大陸全域のGDP(約3兆ドル)を上回っている。しかし人口増加を背景にして年率4%ほどのペースで経済成長し続けているアフリカ諸国が、束になってもまだ日本より経済規模が小さいという時代は、やがて終わりを告げる。
援助額の表明だけでつながっている外交関係は、大幅に修正される必要がある。今は、これまでの援助の実績を、長期的かつ戦略的な外交資産へと転化していかなければならない時期だ。
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