オペレーションF[フォース]
オペレーションF[フォース] (49)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第49回

執筆者:真山仁 2024年1月27日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】帰国の機内で、保守党の和気から都倉は、党四役との面談のため、空港から党本部に直行するよう伝えられる。そしてSNSでは中国のスパイ呼ばわりされているとも――。

 

Episode5 四面楚歌

 

16(承前)

 空港でも、党本部前でも、メディアが待ち構えていたが、都倉は一切口を開かず、通り過ぎた。

 そして、幹事長室に入るなり、重苦しい雰囲気に放り込まれた。

 幹事長の保土谷以下、全員が、険しい表情で都倉を見据えている。

「あれだけのパフォーマンスをやらかしたんだ。覚悟はできているんだろう」

「事前に、ご相談できずに失礼致しました。そういう状況になく」

「釈明は無用。君は、総務会長を解任され、先程、保守党員を除名された。さっさと議員辞職の届けを、衆院議長に提出しなさい」

「はばかりながら、議員を辞職するつもりはございません」

「おい、都倉! 君は自分がしでかしたことがわかっているのかね?」

 新総務会長に就任した鬼塚権蔵[おにづかけんぞう]から怒声が飛んで来た。

「私は、紛争の火種となる問題を解決できる機会を逃さず、行動しただけです」

「問題にしているのは、そういうことじゃない。君は、自身の立場も弁えず、総理や外務大臣が行うべき判断を独断で行ったんだ。そんなやり方がまかり通ってしまえば、日本の民主主義は終わる。つまり、君は国会議員としてあるまじき行為を犯してしまったんだ。潔く議員を辞めたまえ」

 つまらない慣例破りを問題にするばかりで、目の前にある深刻な危機を真剣に考えようとしない国会議員こそ、辞めるべきだ。

「大先輩の鬼塚先生に反論するのは、心苦しいのですが、仰っていることは、まったく理解できません。したがって、議員を辞めるつもりはございません。失礼致します」

「まあ、お待ちなさい」

 政調会長を務める下島美世子[しもじまみよこ]が介入した。外務大臣経験もあるだけではなく、都倉が初当選した時には、先輩議員として世話になった人物だった。次期総理候補の一人でもある。

「あなたは、自分が正しいと思ったことをやったまでという考えでしょうけど、与党の一員であるだけでなく、党員を束ねる立場の総務会長です。それが独断専行したことの責任が、重大なのは分かるでしょう」……

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 小説家 1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な裏側を描いた『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズはドラマ化、映画化され大きな話題を呼んだ。『マグマ』『ベイジン』『黙示』『売国』『ロッキード』『当確師 正義の御旗』など著書多数。最新刊『アラート』は「日本の未来を守る」ための安全保障がテーマの長編ポリティカル・フィクション。
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