【前回まで】帰国の機内で、保守党の和気から都倉は、党四役との面談のため、空港から党本部に直行するよう伝えられる。そしてSNSでは中国のスパイ呼ばわりされているとも――。
Episode5 四面楚歌
16(承前)
空港でも、党本部前でも、メディアが待ち構えていたが、都倉は一切口を開かず、通り過ぎた。
そして、幹事長室に入るなり、重苦しい雰囲気に放り込まれた。
幹事長の保土谷以下、全員が、険しい表情で都倉を見据えている。
「あれだけのパフォーマンスをやらかしたんだ。覚悟はできているんだろう」
「事前に、ご相談できずに失礼致しました。そういう状況になく」
「釈明は無用。君は、総務会長を解任され、先程、保守党員を除名された。さっさと議員辞職の届けを、衆院議長に提出しなさい」
「はばかりながら、議員を辞職するつもりはございません」
「おい、都倉! 君は自分がしでかしたことがわかっているのかね?」
新総務会長に就任した鬼塚権蔵[おにづかけんぞう]から怒声が飛んで来た。
「私は、紛争の火種となる問題を解決できる機会を逃さず、行動しただけです」
「問題にしているのは、そういうことじゃない。君は、自身の立場も弁えず、総理や外務大臣が行うべき判断を独断で行ったんだ。そんなやり方がまかり通ってしまえば、日本の民主主義は終わる。つまり、君は国会議員としてあるまじき行為を犯してしまったんだ。潔く議員を辞めたまえ」
つまらない慣例破りを問題にするばかりで、目の前にある深刻な危機を真剣に考えようとしない国会議員こそ、辞めるべきだ。
「大先輩の鬼塚先生に反論するのは、心苦しいのですが、仰っていることは、まったく理解できません。したがって、議員を辞めるつもりはございません。失礼致します」
「まあ、お待ちなさい」
政調会長を務める下島美世子[しもじまみよこ]が介入した。外務大臣経験もあるだけではなく、都倉が初当選した時には、先輩議員として世話になった人物だった。次期総理候補の一人でもある。
「あなたは、自分が正しいと思ったことをやったまでという考えでしょうけど、与党の一員であるだけでなく、党員を束ねる立場の総務会長です。それが独断専行したことの責任が、重大なのは分かるでしょう」……
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