悪党たちのソ連帝国 (3)

第3回 スターリン 帝国の育成者(前編)

執筆者:池田嘉郎 2024年3月24日
カテゴリ: カルチャー
エリア: ヨーロッパ
若き日のスターリン(1917年撮影、Wikimedia Commons)
かつてのソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする好評連載。第3回は、建国の父レーニンの跡を継ぎ、「ソ連帝国」を育て上げていったスターリンの生い立ちをたどる。

 丘のように積み上がる小麦の穀粒、市場に溢れるスイカや靴や自転車、仲のよい家族のように労働に勤しむ農民。名匠プイリエフによって1949年に撮られた『クバン・コサック』には、社会主義ソ連がたどりついた共同体の夢があますところなく描かれていた。コルホーズ(集団農場)の苦しい現実がどうあれ、プイリエフはソ連農村の暮らしを美しく演出しきった。この叙事詩を演じた俳優のなかには、かつてレーニンの葬儀で寒さに頬を真っ赤にしていたユーリー少年もいた。内務人民委員ベリヤお抱えのアンサンブルで経験を重ねた彼は、笑顔が魅力的なコサック村の青年をはつらつと演じている1

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執筆者プロフィール
池田嘉郎(いけだよしろう) 1971 年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士(文学)。専門は近現代ロシア史。主な著書に『革命ロシアの共和国とネイション』(山川出版社、2007 年)、『ロシア革命 破局の8か月』(岩波書店、2017 年)、共著に『世界戦争から革命へ (ロシア革命とソ連の世紀 第1巻)』(岩波書店、2017年)、訳書にミヒャエル・シュテュルマー『プーチンと甦るロシア』(白水社、2009年)、アンドレイ・プラトーノフ『幸福なモスクワ』(白水社、2023 年)などがある。
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