1988年5月、タガンカ劇場の元総監督ユーリー・リュビーモフは、4年ぶりに祖国の地を踏んだ。ソ連市民権は剥奪されたままであったが、特別に短期間の入国が許可されたのである。異例な措置を認めたのは1985年3月に成立したゴルバチョフ政権であった。ゴルバチョフが進めるペレストロイカと呼ばれる改革によって、ソ連は目まぐるしく変わっていった。リュビーモフは帰国時に、6年間封印されていた『ボリス・ゴドゥノフ』をかけることができたのだが、権力のからくりを暴き立てるこの芝居について、もはや時代遅れとなった、現実のほうが先に進んでいると評されるほどであった1。
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