悪党たちのソ連帝国 (11)

第11回 ゴルバチョフ 帝国の破壊者(前編)

執筆者:池田嘉郎 2024年11月24日
タグ: ロシア
エリア: ヨーロッパ
ゴルバチョフ(1988年撮影、時事通信フォト)
かつてのソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする好評連載。第11回は、やがてソ連崩壊の引き金を引くことになるゴルバチョフの前半生を追う。

 1988年5月、タガンカ劇場の元総監督ユーリー・リュビーモフは、4年ぶりに祖国の地を踏んだ。ソ連市民権は剥奪されたままであったが、特別に短期間の入国が許可されたのである。異例な措置を認めたのは1985年3月に成立したゴルバチョフ政権であった。ゴルバチョフが進めるペレストロイカと呼ばれる改革によって、ソ連は目まぐるしく変わっていった。リュビーモフは帰国時に、6年間封印されていた『ボリス・ゴドゥノフ』をかけることができたのだが、権力のからくりを暴き立てるこの芝居について、もはや時代遅れとなった、現実のほうが先に進んでいると評されるほどであった1

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
池田嘉郎(いけだよしろう) 1971 年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士(文学)。専門は近現代ロシア史。主な著書に『革命ロシアの共和国とネイション』(山川出版社、2007 年)、『ロシア革命 破局の8か月』(岩波書店、2017 年)、『ロシアとは何ものか―過去が貫く現在』(2024年、中公選書)、共著に『世界戦争から革命へ (ロシア革命とソ連の世紀 第1巻)』(岩波書店、2017年)、訳書にミヒャエル・シュテュルマー『プーチンと甦るロシア』(白水社、2009年)、アンドレイ・プラトーノフ『幸福なモスクワ』(白水社、2023 年)などがある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top