オペレーションF[フォース] (57)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第57回

執筆者:真山仁 2024年3月23日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】野党・未来創造党を率いる江島元総理は、国家防衛支援基金を国会で提案した。ヤジが飛びかう中、与党の南郷委員長も防衛財源の不可欠を説き、現総理に退陣まで迫る。

 

Episode6 一世一代

 

5

 防衛大臣という担当閣僚として特別委員会に出席した都倉は、南郷のド迫力の演説を一言一句、心に刻んだ。

 保守党の最長老である南郷が、特別委員会の委員長を買って出た時から、彼の覚悟は感じていた。だが、まさか野党の江島をあそこまで支持するだけでなく、総理に進退まで迫るとは……。

 何かというと、「頑固一徹の薩摩隼人」を引き合いに出す。おまけに話がくどいし、男尊女卑を隠そうともしない。防衛相に就任した時も「この有事に、女が防衛大臣になって何ができる」とぼやいていたと聞いている。

 だが、今の演説は凄まじかった。

 正論過ぎるきれい事に聞こえるかも知れないが、思わず背筋を伸ばしたくなった。

「大臣、一息つきませんか」

 秘書官補佐の樋口梓に囁かれ、都倉は我に返った。

 委員会室を出ると、メディアに取り囲まれた。

「大臣、先程の南郷委員長のご発言についての感想を、お聞かせ下さい」

 防衛担当の記者の一人がICレコーダーを突きつけてきた。

「未だ衝撃が駆け巡っています。南郷委員長が仰られたことは、私たち国会議員一人ひとりに、矜恃を示し行動せよという意味だと考えています」

「委員長の発言を受けて、防衛大臣として、何をなされるのでしょうか」

「既に着手していますが、防衛省内の予算の精査を徹底し、無駄を省いた上で、国を守るために何が必要であるかを早急に、国民の皆様にご提示致します」

「そして、国民に防衛費の財源確保のための増税を求めるのでしょうか」

「これは、内閣として考えるべきことでしょうが、私個人としては、全国を行脚して、国民の皆様に直接、財源確保のお願いを続けていけたらと思っております」

 こんな発言をすると、また省内が大騒ぎするだろうな、と思ったが、もはやそれは、些末な問題だった。

「大臣は、元々、財政健全化を訴えてらっしゃいますが、矛盾しませんか」

「財政の健全化とは、無駄を徹底的に省き、それでも財源が不足しているのであれば、国民の皆様のご理解を戴けるよう、汗を流すことです。矛盾しているとは思えません」

 そこで秘書官の磯部が記者と都倉の間に体を入れて、囲み取材を終わらせた。

「ありがとう。でも、また私は暴走したと言われるでしょうね」

「いえ、防衛大臣として100点のご回答だったかと」

 磯部は即答した。

「そう言ってもらえると、ホッとします」

 なおも追い縋る記者を振り切って、3人は大臣控え室に入った。

 劉唯からのメールが届いていた。

 “今晩、午後11時、いつもの場所で”……

カテゴリ: カルチャー
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top