Weekly北朝鮮『労働新聞』 (60)

北朝鮮と中国「国交樹立75周年」の式典で露呈した温度差(2024年4月7日~4月13日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年4月15日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
4月12日、東平壌大劇場で開催された「朝中親善の年」の開幕式(『労働新聞』HPより)
ロシアで発生した大洪水に哀悼の意を示し、金正恩国務委員長からプーチン大統領へ慰問電文が送られた。『労働新聞』でロシアへの慰問電文が紹介されるのは、3月のモスクワ郊外テロ事件に続き今年2度目。他方、今年は北朝鮮と中国の国交樹立75周年にあたり、11日には中国共産党序列3位の趙楽際全国人民代表大会常務委員長らが平壌を訪問した。「朝中親善の年」を記念して北朝鮮の崔龍海最高人民会議常任委員会委員長と趙楽際が演説したが、両者の発言にははっきりとした温度差があった。『労働新聞』注目記事を毎週解読
 

 4月8日付1面トップには、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長によるロシアのウラジーミル・プーチン大統領宛の慰問電文が紹介された。「慰問電文」は、天災などに見舞われた各国の首脳に対して送られるものであり、今回は5日にロシア南部のオレンブルク州で発生した大規模な洪水に対して見舞いの言葉を述べている。金正日(キム・ジョンイル)政権期から金正恩政権初期にかけては一貫して金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員会委員長が送付していた。

 ただし金正日時代においては、慰問電文が『労働新聞』で紹介されること自体がきわめて稀であり、金正恩による慰問電文が頻繁に掲載されるようになったのは2014年以降のことである。2019年4月からは金永南に代わってその後任となった崔龍海(チェ・リョンヘ)が送るようになったが、2020年2月に死去した旧ソ連元帥の遺族に金正恩が慰問電文を送って以降、各国首脳宛ての電文発信者も完全に金正恩へと切り替わった。昨年はシリア大統領への1通だけであったが、今年は既に4通目となった。1月には岸田文雄総理とイラン大統領に、3月にはモスクワ郊外で発生したテロ事件に際してプーチンに慰問電文が送られ、今回の大洪水に際して再びプーチン宛の慰問電文が掲載された。これまでに『労働新聞』が紹介した金正恩の慰問電文はわずか10通に過ぎず、宛先はロシア、キューバ、中国、シリア、イラン、それに日本に限られていることに鑑みると、1月5日の岸田総理への慰問電文がいかに際立った存在であったかがよく分かる。

 11日付は、金正恩が「軍事教育の最高学府」とされる金正日軍政大学を現地指導したと報じた。2020年10月10日の党創建75年閲兵式で金正日政治軍事大学から現名称への変更が確認されていたが、今回、同大学が金日成の「遠大な構想に従って1973年3月7日にその歴史的使命を遂行し始めた」ことも明らかにされた。半世紀にわたって「党の軍事教育革命方針を忠実に貫徹してわが軍隊の中核指揮メンバーを数多く育成」してきたという。金正恩は、「金日成軍事総合大学と同様、わが軍の強固な元手であり、強兵建設の成敗とわが革命の前途にかかわる重大な戦略的拠点だ」として、「学生を朝鮮労働党の革命思想と主体の軍事戦略路線でしっかり武装」させることを命じた。

 現地指導の随行者としては、朴正天(パク・ジョンチョン)党中央軍事委員会副委員長、強純男(カン・スンナム)国防相、李永吉(リ・ヨンギル)朝鮮人民軍総参謀長、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)国防省総顧問の順で紹介された。国防相と軍総参謀長の紹介順は完全に逆転して久しい。

 黄炳瑞の名が挙げられたのは、2022年9月9日の建国74周年慶祝行事以来である。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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