
半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)は6月4日の定時株主総会後の取締役会で、魏哲家(C.C.ウェイ)を董事長(会長)に選出した。
受託製造の専業企業として1987年に設立されたTSMCは、半導体生産の最先端を担う企業に成長。2020年には受託製造市場の5割を超え、今やアメリカ企業を中心に約500社の顧客を有するという存在感を持つに至っており、米インテル、韓国サムスンの追随も許さない圧倒的な強さを誇っている。
TSMCをこれほどの巨大企業に育てたカリスマ創業者のモリス・チャン(張忠謀、92)は、2018年に会長の座を退き、劉徳音(マーク・リュウ)と魏哲家が協力して経営する二頭体制となった。そしてこの6月に劉は引退、魏が董事長兼CEO(最高経営責任者)として、世界のサプライチェーン顧客や各国政府との折衝に当たることになる。
AIや最先端技術の頭脳を担う半導体生産の鍵を握る企業を引き継ぐ魏哲家とは、どんな人物なのだろうか。
TSMCの「最も重要な三要素」を経験
一言で表すとすれば、創業者であるモリス・チャンが米国から招かれ、台湾でTSMCの基礎と成長を支えた「鉄人経営者」であったとすれば、魏は台湾本土出身の顧客第一を標榜する「庶民派経営者」だとされる。
1953年、台湾中部の南投県有数の茶処である鹿谷の生まれ。台中市内の普通高校を卒業後、新竹市内にある理工系の国立交通大学電子工程学科(現陽明交通大学)の学位を取得、さらにイェール大学で電気工学博士号を取得し、米国の半導体大手企業であるテキサス・インスツルメンツの技術開発畑で研鑽を積むが、大きな転機がやってきたのが、1998年にTSMCに入社してからだった。
台湾紙『経済日報』の記事によれば、TSMC入社当初は、技術開発部署、続いて生産製造部署でキャリアを積んでいた魏だったが、2009年にモリス・チャンは魏に新設した営業開発部門を担当させ、クライアント、マーケットとの接触を密にさせた。TSMCが最も重要な三要素とする技術開発、製造、営業の主要部門を経験させた上で、魏を完璧なCEOに育て上げたという。
2018年の「二頭体制」開始以来、魏は米中間の半導体争奪戦やコロナ禍という困難な局面を乗り越えた上で、次世代の新局面に立たされたことになる。
とはいっても、魏はすでに71歳という年齢に至っているために、TSMCは魏の負担を分散させる「未来の後継者」も準備している。

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