
【前回まで】財務省の周防は、新潟で日本海連合の例会に出席した。顔を合わせた作家の森永は、「防人税」のネーミングを褒めながら、政府や国民の危機意識の低さを心配する。
Episode6 一世一代
19(承前)
その時、日本海連合の事務局を担当している山科一平[やましないっぺい]に肩を叩かれた。
「ちょっといいかな?」
森永に改めて連絡すると告げて、周防は山科に続いた。
山科は、総務省の期待の星で、元国会議員だった知事から請われて新潟県に出向し、県活性化室の次長を務めている。
日本海連合を提案したのも山科で、周防も彼から求められて、事務局のミーティングや例会に参加していた。
「今日は、凄い盛り上がりだったな」
前を行く山科に声をかけながら、周防は横に並んだ。
175センチの周防より小柄で、痩身の山科は、実年齢より若く見える。
「いやあ、痺れたよ。よりによって今日、北朝鮮のミサイルが放たれ、それを見事に撃ち落としてくれたんだからね」
「これが弾みになればいいんだが」
「相変わらず、懐疑的だな」
「こっちほど東京は沸いていない」
「らしいな……。そこで、知事たちが額を付き合わせて戦略を練っている」
そこに俺も呼ばれるのだろうか。
周防の予感が、的中した。
案内されたのは、懇親会会場に隣接する小宴会場だった。
そこでは、10人の県知事が活発な議論をしていた。
「周防をお連れしました」
新潟の戸増知事が最初に反応した。
「やあ、毎回東京からの参加、感謝です」
戸増は、彼の正面に一つだけ空いている椅子を指し示した。
これから何が始まるんだ、と警戒しながらも、周防は素直に従った。
「今日は、本当に有意義な1日でした。これで、祖国防衛についての考えを変える人が出てくると期待しているんです」
「私も、そう願っています」
「だが、願うだけでは、この社会は変わらない。だから、次の一手を打とうと思う」
その一手に、自分がどう関われるのだろうか。

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