サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は海外プロジェクトへの参画を通じて国際LNG(液化天然ガス)市場でのプレゼンスを拡大させる動きを見せている。UAEのアブダビ国営石油会社(ADNOC)は5月20日に米国リオグランデLNGの権益11.7%を取得する合意を、22日にはモザンビークで計画される三つのLNGプロジェクトに原料ガスを供給する同国エリア4鉱区の権益10%を取得することを発表した。サウジアラビアは6月13日に国営石油会社サウジアラムコがリオグランデLNGからの長期LNG供給に関する基本合意書(HOA)を締結した。
サウジアラビアとUAEは同じペルシャ湾岸に位置するイランやカタールと比べて、天然ガス埋蔵量・生産量は膨大とは言えない。サウジアラビアは生産した天然ガスをすべて国内需要に充てており、UAEは1970年代からLNGを輸出しているとはいえ、カタールからのパイプラインガスの輸入を勘案すると、天然ガスの純輸入国であり続けてきた。両国は2000年代から自国のエネルギー需要を満たすためのガス開発に注力してきたが、なぜ今になって国際ガス市場に目を向けているのだろうか。そして、両国が国際LNG市場への進出によって見据える利益とは何だろうか。
本稿では、まずサウジアラビアとUAEの国際市場における具体的な取り組みと、国際LNG市場に注目する背景となった国際環境の変化について概観する。そのうえで、海外LNGプロジェクトへの関与で両国が得られる利益を「市場・知見・外交」の三つの視点から検討する。
1. サウジアラムコ・ADNOCの国際展開に向けた試み
両国の国営石油会社であるサウジアラムコとADNOCの天然ガス・LNG分野での国際展開は、ここ数年で急速に目立ち始めた。表1には現時点で実現していないものも含めて、両国の海外ガス・LNGプロジェクトへの参画に関する動きを取りまとめている。これまで両社が海外案件に全く参画していなかったことを踏まえると、昨年から今年にかけて両社の経営戦略が急速に転換したかのように見える。しかし実際には、サウジアラビア・UAEはともに、2010年代から国際LNG市場への進出を見据えた事業拡大を試みてきた。現下の資源高による国営石油会社の余剰資金を受けて、新型コロナウイルスの感染拡大以前から長らく検討されてきた国際展開が、改めて進展したものと考えられる。
2016年にサウジ政府が「ビジョン2030」を発表して以来、サウジアラムコは国際LNG市場への関心を高めてきた。
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