オペレーションF[フォース] (76)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第76回

執筆者:真山仁 2024年8月3日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】ハワイ会談で都倉防衛大臣は、バーンズ国防長官から「3年間で在日米軍を全面撤退する」と一方的に通告された。大統領もテレビでそれを全国民に発表してしまう。

 

Episode7 独立独歩

 

ええい、このうえは、風も吹け、波も起これ、船よ、のたうて!

あらしが来るぞ、あとは骰子の目しだいだ。

ウイリアム・シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』より

 

1

 3年後――。

「ブルー・リッジに敬礼!」

 統合幕僚監部の佐官の号令で、自衛隊幹部たちが、横須賀基地を出港するアメリカ第七艦隊の旗艦である揚陸指令艦ブルー・リッジに、最後の挨拶を送った。

 艦上のアメリカ海軍兵たちは、身じろぎもせずに並び立ったまま、港を離れてゆく。都倉は目を凝らし、その様子を眺めていた。

 本当に、彼らは出て行こうとしている。

 ハワイでのバーンズ国防長官との会談で突如、言い渡された「3年で、全面撤退」を、米軍はスケジュール通りに実行し、掉尾を飾るべく司令部を兼ねるブルー・リッジが今、横須賀港を離れた。

 しかも、米軍はグアム、ハワイへの撤退費用の全てを、日本に負担させるという要求を、南郷鉄雄総理に呑ませた上で、悠々と去って行くのだ。

 何から何まで、アメリカの勝手。そんな国なら出て行ってくれてせいせいする。心からそう言えれば、どれほど痛快か……。

 セレモニーのフィナーレに、上空をブルーインパルスが飛行し、全ての行程が終了した。

 撤退は、三沢基地から始まり、沖縄でも粛々と進められ、1時間前に嘉手納基地から最後の輸送機とF-35戦闘機が離陸したという報告を受けている。

 これで、よかったのか。

 3年前に一方的に通告を受けてから、何百回となく自問した言葉が、浮かんだ。

 そう、よかったんだ。

 日本は、独立国だ。自国民と国土は、自国で守るのが当然なのだから。

 したがって、昨日の演説で、南郷総理が「戦後、80年を経て、我が国は名実ともに独立を果たしたのです」と述べた言葉は、正鵠を射ている。徐々に小さくなっていくブルー・リッジを見ながら都倉は、しみじみと独立という言葉を噛みしめた。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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