80時間世界一周 (60)

東南アジアへ脱出するアラブ富裕層の避暑

執筆者:竹田いさみ 2009年8月号
エリア: 中東 アジア

「コーナーの席が空いていますから、あちらで水タバコでもいかがですか。上質なカフェもあります」 ゆっくりとした口調で話す店員に案内されるまま、「アルジャジーラ」の店内へ入った。ここはインドネシアの首都ジャカルタのアラブ人街で一番人気のレストラン。外は炎天下でも、窓のカーテンは閉められ照明も落とされているので、店内は薄暗い。目をやると、ふっくらとしたソファーに身を沈め、水パイプを悠然とくわえるアラブ人の姿があった。垂直に立った水パイプの最上部で赤く燃える炎は、二匹の蛍のようだ。 ジャカルタ中心部の大通りから、東に向けて車を走らせ、横道を入ると通称「アラブ人街」に至る。旅行ガイドや地図にも正式に記載されていないため、ジャカルタ在住の日本人さえ、その存在を知らないことがままある。街は七月八日の大統領選挙に向けたキャンペーンの真最中で、いたるところにユドヨノ大統領やメガワティ前大統領など候補者の大きな顔写真が張られているが、アラブ人街は選挙戦などどこ吹く風。まるで異次元空間だ。

カテゴリ:
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top