
習近平政権下のシンクタンク政策
習近平政権下における中国のシンクタンク政策は、国家戦略の一環として「中国の特色ある新型シンクタンク」の構築を強力に推進することを目指している。中国共産党・中国政府は、1949年の中国科学院(CAS)の創設を皮切りに、政策研究機関や政府系シンクタンクを拡大してきたが、特に1978年の改革開放政策以降、大学や企業に属する「外脳」も本格的に登場した。
2012年の第十八回中国共産党大会報告では、科学的・民主的・法に基づく政策決定のメカニズムと手順の改善を求め、シンクタンクの役割強化が提案された。2013年4月には習近平中国国家主席が「中国の特色ある新型シンクタンク」建設を指示し、シンクタンクの発展を国家戦略に引き上げ、科学的意思決定の支援、国家のソフトパワーの強化、さらなる役割拡大を求めた。また、習近平は、2014年にはドイツ訪問中にシンクタンク外交の強化を提唱し、シンクタンクが国家間の「第二のトラック」として国際交流に貢献する役割が期待された。
2014年10月には、習近平が組長を務める党のワーキンググループである中央全面深化改革領導小組(現:中央全面深化改革領導委員会)がシンクタンクの建設を国家統治と能力の近代化の重要な手段と位置づけ、2015年1月に「中国の特色ある新型シンクタンク建設の強化に関する意見」が発表された。その背景には、シンクタンクの位置づけが国内で一般的に評価されていないこと、国際的な知名度・影響力を有する質の高いシンクタンクが不足していること、研究結果が十分に提供されていないこと、意思決定や協議への参加に関する制度的な取り決めが不足していること、シンクタンクの建設に関する全体的な計画が不足していること、資源配分が十分に科学的ではないこと、組織形態と管理方法の革新が急務であること、指導的人物と優秀な人材が不足していることが挙げられている。党政部門や社会科学院、大学、民間など様々なシンクタンクの協調発展と、影響力ある高級シンクタンクの構築が目標とされた。
これを推進するために、2015年に中国政府は特に重要な役割を果たす25の高級シンクタンクを選定した。これらは、政策研究や戦略的提言を通じて、国家の政策意思決定を支援することが期待されている。例えば、国務院発展研究センターや中国社会科学院、そして中共中央党校などが含まれており、経済、社会、科学技術、国際関係など多岐にわたる分野で研究を行っている。これにより、国家の政策立案や戦略策定において、専門的で高度な知的支援を提供し、中国のガバナンスと国際競争力の強化に貢献している。
さらに、2016年には一帯一路構想の推進にシンクタンクが関与することが強調され、シルクロードフォーラム等でシンクタンクの役割が再確認された。習近平の指導下で、シンクタンクは政策支援だけでなく、国際的な影響力拡大の一環としても重視され、シンクタンク熱とも称される活発な設立運動が続いている。特に、「習近平思想」を名称に冠したシンクタンクは大幅に増加しており、2021年時点でその数は18に上るという。
シンクタンクが発信する内部文書「内参」
中国のシンクタンクは、国内では中国共産党・政府の政策決定を支援する役割を果たし、戦略的課題や公共政策に関する調査およびコンサルティングを通じて政策決定のプロセスを支える。また海外では、国際社会への影響力を高める役割を担っている。
特に、シンクタンクが発信する「内参」と呼ばれる内部文書は、政策提案を通じて政策決定者に直接的な影響を与える有力な手段であり、これがシンクタンクの主要な役割のひとつとされている。2023年末の報道によれば、過去10年間の中国のシンクタンクによる内部文書の提出件数は増加している。そのうちかなりの割合が省部級以上の指導者から指示を受けており、意思決定と協議において重要な役割を果たしているという。

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