半年で核弾頭は100発増? 「トランプ2.0」も視野に加速する中国の核軍拡

執筆者:小林祐喜 2025年1月15日
エリア: アジア
第2次トランプ政権下では、中国において「米国との戦力均衡」達成への意識が高まる可能性がある[中国・新疆ウイグル自治区で建設中の核ミサイルサイロとされる衛星写真=2021年7月29日、2021 Planet Labs, Inc.提供](C)AFP=時事
中国が保有する核弾頭は、2024年前半、5年前の2倍に達したとみられる。トランプ次期政権で想定される対中敵視政策への対抗もあり、勢力均衡を目指す動きがさらに加速するのは確実だ。ただし、両国が一気に「相互確証破壊」まで突き進むと考えるのも早計だろう。中国のプルトニウム生産のカギを握る高速増殖炉(FBR)は安定稼働に至っておらず、2018年に締結された中ロ原子力協定も条文上は軍事利用を禁じていることが判明した。国際社会には中国にFBRの査察を受け入れさせることが喫緊の課題となっている。

 米トランプ政権の2期目を控え、中国が核戦力の増強を加速させている。米国防総省は毎年議会に提出している中国の軍事動向に関する報告書の2024年版を同年12月に公表し、「中国の核弾頭数は本年前半に600発に到達したとみられる」と指摘した1。背景の一つとして、ドナルド・トランプ氏が1期目に軍事面を含め、中国に強硬な政策を展開したため、習近平指導部が核戦力増強により戦力均衡を目指そうとしていることが挙げられる。

 しかしながら、中国の現在のプルトニウム保有量では、米国、あるいはロシアの配備核弾頭数に並ぶことは困難である。そのため、ロシアの技術支援を受け、2023年に試運転に入った高速増殖炉(FBR)に関心が集まる。FBRは使用済み燃料を再処理することにより、核兵器への転用に適した超高純度のプルトニウムを大量に獲得できるためである。

 本稿は、2023年5月に当サイトで公表した拙稿『米中「相互確証破壊」時代は到来するか――中国のプルトニウム生産見込みと核軍拡』の続報として、その後に入手した資料や衛星画像から、中国の核をめぐる現状を概観する。続いて戦力均衡を目指す上で中国が抱える難題を指摘し、最後に中国の核軍拡への日本、および世界の対応を考察する。

1. 核弾頭の入れ替え体制を整備できるか

 世界の軍事支出や核戦力を分析し、毎年報告書を公開しているストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は2019年、中国の核弾頭数を290発と見積もっていた。最新の2024年版では、同年1月現在、500発に達したと指摘した2。冒頭に紹介した米国防総省の見込みが正しければ、中国はそこから半年程度で、さらに100発の核弾頭を製造したことになる。

 中国が核戦力の増強を加速させているのは、トランプ政権1期目の対中敵視政策が一因である。同政権は2018年の「核態勢の見直し」(NPR)の改定で、「地域侵略に対する信頼できる抑止力を維持する」として、低威力核巡航ミサイルを開発・配備する方針を示した3。中国が「核心的利益」と位置付ける台湾周辺や南シナ海における活動を抑止しようとする米国の姿勢に対し、戦力均衡の必要性を痛感し、中国は軍備増強を図っているとみられる。

 核戦力増強を予測するうえで、核弾頭を収容するサイロの建設数などいくつかの指標が存在するが、カギを握るのは、核兵器の製造に欠かせないプルトニウムの保有量である。世界における核物質生産、保有動向を調査している核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)は2024年4月、各国のプルトニウム保有量の最新データを公表した(表1)。

表1

 核兵器1基あたりに必要なプルトニウムは3.5キロ±0.5で換算されるため、中国は現在保有するプルトニウムにより、725~965発の新規核兵器の製造が可能になる。SIPRIの公表データ通り、中国の核弾頭数が2024年1月現在、500発とすると、保有総数を1225~1465発まで増やすことができる。米国防総省の議会への報告書は、プルトニウム保有量を考慮に入れた予測と考えられる。数字上は、米ロ両国が締結した新戦略兵器削減条約(新START)で定められた配備核弾頭数の上限(1550発)に近接する。

 しかし、核兵器の運用・管理の面から、保有する核弾頭をすべて実戦配備するのは現実的ではない。

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カテゴリ: 軍事・防衛 政治
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執筆者プロフィール
小林祐喜(こばやしゆうき) 笹川平和財団研究員。1972年生まれ、関西学院大学法学部政治学科卒業。河北新報社入社。報道部経済班などを経て2007年退社。13年フランス・ストラスブール政治学院で国際関係論、14年同・レンヌ政治学院で公共政策論の修士課程修了。15年パリ高等鉱業大学院博士課程。19年「福島第一原発事故の危機対応における政治と科学の関係」で博士号を取得。同年7月より、現職。近著は「核不拡散に貢献する原子力技術と次世代炉」月刊『公明』4月号。
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