Weekly北朝鮮『労働新聞』 (101)

規律違反の地方幹部を大量処罰、党創建80周年に向け強化される綱紀粛正(2025年1月26日~2月1日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年2月3日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
北朝鮮は7年以上にわたって核実験を自制しているが、核関連施設の現地指導と発言を公表することで、核保有国としての地位を繰り返し誇示している[核物質生産基地と核兵器研究所を視察する金正恩国務委員長=日時・場所不明、2025年1月29日に朝鮮中央通信が配信](C)AFP=時事
南浦市温泉郡と慈江道雩時郡で「地方発展20×10政策」に基づく工場建設が報じられた直後に地方幹部らの「犯罪行為」が発覚、処分された。1月29日には金正恩による核兵器施設視察を報じるとともに、兵器開発5カ年計画の完遂を改めて強調。31日にはベトナムとの国交樹立75周年を迎え、金正恩とトー・ラム共産党中央委員会書記長、ルオン・クオン国家主席の祝電や手紙のやりとりが報じられた。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 1月29日付は読みごたえのあるものとなった。まず第1面から第2面中段にかけては、朝鮮労働党中央委員会の第8期第30回書記局拡大会議について報じられた。金正恩(キム・ジョンウン)総書記によって指導されたこの会議は、「党内規律に乱暴に違反し、否定的な特権、特殊行為を働き、人民の尊厳と権益を甚だしく侵害する重大な事件」が南浦(ナンポ)市の温泉(オンチョン)郡と慈江(チャガン)道の雩時(ウシ)郡で発生したために招集されたという。

 趙甬元(チョ・ヨンウォン)組織担当党書記と金才龍(キム・ジェリョン)党規律調査部長は、温泉郡において党中央委員会全員会議(総会)の決定貫徹を目的として開催された郡の党全員会議が「形式的」に行われ、40人ほどの幹部が集団で不正行為を働いたと指摘した。事件の描写は抽象的かつ断片的だが、サービス機関から酒の提供を受けた問題のようで、「主謀者、加担者は指導幹部としての初歩的な資格もない腐り切った群れ、放恣な烏合の衆」であると糾弾された。

 金正恩も、「大きな党規律違反および道徳文化紊乱罪、わが党の規律建設路線に対する公然たる否定」「幹部の職級を乱用して人民以上の特典をむさぼろうとする特権階級が形成される恐れを直感させる危険なシグナルにもなる」と非難した。さらに、今後も規律違反行為を制圧するための「狙撃戦、追撃戦、捜索戦、掃討戦」を展開すべきだと述べていることから、10月10日の党創建80周年を前に、綱紀粛正がいっそう強化されることになろう。党中央委員会書記局は、温泉郡の党委員会解散を決定し、本件加担者に対する厳正な処罰案を宣布したという。

 一方、雩時郡での「重大な反人民的犯罪行為」については、金正恩が、「地方の権力乱用者、官僚主義者はいささかの躊躇もなく党と人民の聖なる団結の砦を破壊しようとしている」「絶対に許しがたい特大型の犯罪事件」と断じた。農業監察機関の監察員らが「神聖な法権を悪用して地域住民に苦痛を与え、財産をむやみに侵害しながら許されない犯罪を憚ることなく働いた」のだという。党中央委員会書記局はこの農業監察機関を解散させ、郡の党委員会トップである責任書記と農業監察機関の監察員らに対する厳正な処罰案を宣布した。

 この会議は27日に開催されたとのことで、公表までに少し時間を要したようである。『労働新聞』での記述は非常に限定的であるが、北朝鮮国内では組織ごとに行われる集会の類を通じて詳細が明らかにされるはずである。

 なお、温泉郡については21日付、雩時郡については26日付で地方工業工場の竣工が大々的に報じられていた。いずれも昨年における「地方発展20×10政策」の成果を誇示するもので、新たに生産された食品や日用品を笑顔で手にした人々の写真が数多く掲載されていた。両郡の党委員会責任書記の発言も紹介されており、竣工式開催の時点では「事件」が発覚していなかったことになる。

 続いて29日付第2面下段から第3面上段には、金正恩が核物質の生産基地と核兵器研究所を現地指導したことについての記事が掲載された。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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