新生シリア、莫大な負の遺産を継ぐ国家再建のリアル(下)――「力の空白」をめぐる外国勢力の関与に新局面

執筆者:松本太 2025年6月15日
エリア: 中東
ダマスカス近郊に展開した治安機関員。イスラエルの支援を受けたドルーズ派と新政権の衝突も起きている[2025年4月30日](C)AFP=時事
アサド政権期のシリアは、イラン、ロシア、トルコ、イスラエル、米国の関与による複雑な力学に翻弄された。政権崩壊でイランとロシアは後退し、もはや米国も軍の駐留は望まない。この新たな「力の空白」に直近、関与を強めるトルコ‐イスラエルの緊張関係が浮上している。トランプ政権の制裁解除が実効性を持つまでには時間がかかり、経済復興のカギを握るのはサウジ、カタールなど湾岸諸国の投資となるが、イスラエルによる安全保障上の計算がここに関数として加わるだろう。

 

領土の分割:米国、トルコ、イスラエルの動きが播く火種

 もう一つの大きな負の遺産は、やはりシリアの領土の一体性が外国勢力によって蹂躙されているという、これまでと変わらぬ事実である。アサド政権崩壊は、イランとロシアのプレゼンスを縮小させた一方で、トルコとイスラエルのプレゼンスを拡大させ、両者の間で緊張を生みつつある。この問題は、厄介なことに北東部のクルド勢力や南部のドルーズ派に代表されるように、ダマスカスの新政権とは距離をとるシリア各地の自律的な動きと呼応しあっている。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
松本太(まつもとふとし) 一橋大学国際・公共政策大学院教授 1965年生まれ。東京大学教養学部アジア科卒業後、1988年外務省入省。在エジプト大使館参事官、内閣情報調査室国際部主幹、外務省情報統括官組織国際情報官、駐シリア臨時代理大使兼シリア特別調整官、在ニューヨーク総領事館首席領事、駐イラク特命全権大使を歴任後、現職。著書に『ミサイル不拡散』(文春新書)、『世界史の逆襲 ウェストファリア・華夷秩序・ダーイシュ』(講談社)等がある。【X】https://x.com/futoshi_japan【HP】https://salmon664262.studio.site
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