国際連合の諸機関が、大幅な予算カットに直面し、大規模な活動縮小と人員削減を始めている。国連本部にもその波が押し寄せてきており、改革が必至となっている。これは直近では、ドナルド・トランプ米大統領の国連向け予算の大幅削減の方針によるものである。しかしその背景には、米国をはじめとする伝統的なドナー国の財政赤字や経済停滞などの様々な構造的な要因がある。個人の志向による一過性の現象と片付けるわけにもいかない。
機構改革はまだ現在進行中の話であり、最終的な結果が具体的にどうなるかは、まだわからない。また大幅な活動縮小が、国際援助の現場に与える具体的な影響の全体像が見えてくるのも、しばらく先になるだろう。しかし大きな衝撃になることだけは間違いない。
そこで本稿では、衝撃の性質を整理し、現時点での国連側の反応も紹介しながら、背景にある事情を概観することを試みる。今後の具体的な影響をより的確に把握していくためにも、構造的な事情の理解は必須だ。
トランプ政権の動き:国連向け予算をゼロに
7月18日、米国議会は「歳出撤回法案」を可決し、2025年会計年度内の対外援助の執行を差し止めた。米国政府は、トランプ政権の意向で、国連分担金の支払いなどを止めていたが、この法律により、2025会計年度における国連への米国の分担金支払いの可能性はなくなった。
トランプ大統領が5月に提示した2026年会計年度予算案では、国際支援の予算がゼロになっている。つまり国連への資金提供は、専門的な活動をしている国連諸機関に提供する任意の拠出金だけでなく、加盟国の義務である分担金もあわせてなくしてしまう、という急進的な案である。なおトランプ政権は、発足直後に専門機関でありながら分担金支払いがあるWHO(世界保健機関)からの脱退を表明していた。7月22日には、やはり分担金支払いがある専門機関のUNESCO(国連教育科学文化機関)からの脱退を表明した。
7月初めには、USAID(合衆国国際開発庁)の廃止が決まった。厳密に言えば、USAIDが手掛けていた開発援助の業務は、国務省が吸収する形だが、その国務省の予算も大幅削減される方針である。米国の国益に本当に関わる活動だけは残すとされるが、その予算上の比率は2割以下と言われている。つまり世界最大の対外援助の資金提供国であったアメリカが、対外援助予算の8割以上を消滅させる方針を表明しているのである。この方針にそって、国連向けの予算のゼロ化が目指されている。
トランプ大統領のみならず、マルコ・ルビオ国務長官も、対外援助に依存した仕組みを変える、と明言している。つまりかなり政策的な原則論として、対外援助をほぼ廃止にしたい意向を持っているということである。
実は国連憲章は、加盟国に分担金を支払わせるための具体的な規定までは持っていない。ただし、憲章17条で、予算に関する事項を決定する権限は総会が持つ、と定めている。現在の分担金比率は、総会の決議を経て決められているため、この点に手続き的な瑕疵はない。分担金は、基本的には、世界経済におけるGDP(国内総生産)比率にそって決められている。
ただしアメリカは分担金支払いを滞納したうえで、引き下げを国連側に要求して交渉をしたことがあり、2001年から上限額としての22%を割り当てられている(実際のアメリカのGDPの世界経済におけるシェアは26%以上)。今回も分担金上限を引き下げる交渉に持ち込む可能性があるが、いずれにせよしばらく分担金の予算を計上しないようだ。
まだ発生していない交渉の行方は、不透明だ。中国のGDPの世界経済におけるシェアは2023年の段階で17%以上に達しており、しかも拡大中だ。アメリカの上限引き下げが果たされると、中国が分担金支払い額で並んでくる可能性がある。いずれは中国の意向確認なくしては、アメリカと国連の交渉も進めていけないようになるはずである。
実は憲章19条は、「この機構に対する分担金の支払が延滞している国際連合加盟国は、その延滞金の額がその時までの満2年間にその国から支払われるべきであった分担金の額に等しいか又はこれをこえるときは、総会で投票権を有しない」と定める。アメリカは、この規定のため、理論上は、総会での投票権を失うはずである。
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