ウクライナ讃歌
ウクライナ讃歌 (25)

第5部 再起する日常(3) 機雷が流れ着く浜辺

執筆者:国末憲人 2026年2月23日
タグ: ウクライナ
エリア: ヨーロッパ
海水浴客でに賑わうカロリノ・ブハズの浜辺。筆者が訪ねて1週間あまり後、海水浴客が機雷の爆発で死亡した (筆者撮影)
ウクライナ最大の貿易拠点オデッサでは、港湾・穀物ターミナルのみならず、国際文化都市の歴史が生んだ建築物なども、執拗な攻撃の対象となってきた。世界遺産への登録も抑止にはなっていないと人々は言う。オデッサからの穀物輸出は、ロシアが「黒海穀物イニシアチブ」の更新を拒否した後も順調に継続しているようだった。ロシアの機雷が流れ着く浜辺に海水浴場があると聞き、訪ねてみようと思い立つ。ところが、行先を告げると男性の運転手たちは軒並み、「ああ、だめだめ」と断ってくる。【現地レポート】

 ウクライナ第3の都市、黒海に面したオデッサを2025年7~8月に訪ねた。2022年の全面侵攻以降では3度目となる。前回は極寒の2025年2月で、街路は閑散としていたが、今回は夏の盛りであり、街路樹に覆われた中心街では若者や家族連れが散策を楽しんでいる。中心街にいる限り、毎日のように鳴り響く空襲警報と時折飛来するミサイルやドローンを除いて、戦争の影をあまり感じない。

 しかし、そう見えるのは、こちらの感度が鈍いからだろう。実際には、戦争は人々の生活に、確実に影を落としている。

攻撃を受けても親ロ派

 ウクライナ公共放送『ススピリネ』のオデッサ支局を訪ねた。『ススピリネ』は日本のNHKにあたるメディアで、各州都に支局を持つ。85人前後のスタッフを抱えるオデッサ支局は中でも大規模な拠点で、地元ニュースのフォローや独自のドキュメンタリーの制作に取り組むほか、ここから発信する全国番組の枠も週1回あるという。

攻撃がある時は地下のシェルターに避難する[『ススピリネ』オデッサ支局のラジオのスタジオ](筆者撮影)

「攻撃がある時は地下のシェルターに全員避難します。ただ、シェルターは第二次大戦中の避難壕のようなところで、良い音質での発信ができません。だから、生放送の途中に避難しなければならない場合、発信元を切り替えてキーウのスタジオに任せるのです」

 ラジオ編集者のゲンナジー・ステパネンコ(59)が説明した。

 国際文化都市として栄えたオデッサには、数々の名建築が残る。地元政治家やウクライナ政府は2023年、この街並みを守るための緊急措置として、国連教育科学文化機関(ユネスコ)と協力して旧市街一帯の「オデッサ歴史地区」を世界遺産に登録した。しかし、ロシアはその後も攻撃の手を緩めない。数々の文化財が被害に遭っているのは、2025年3月22日付本欄『第3部 ミサイルの下で(3) オデッサ、狙われた世界遺産』で報告した通りである。

 その後、状況はどうなったか。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
国末憲人(くにすえのりと) 東京大学先端科学技術研究センター特任教授、本誌特別編集委員 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員、GLOBE編集長、朝日新聞ヨーロッパ総局長などを歴任した。2024年1月より現職。著書に『ロシア・ウクライナ戦争 近景と遠景』(岩波書店)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)、『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『イラク戦争の深淵』『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『テロリストの誕生 イスラム過激派テロの虚像と実像』(草思社)など多数。
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