饗宴外交の舞台裏 (75)

九州で知った日本の精神

執筆者:西川恵 2004年4月号
エリア: ヨーロッパ

 日程が合わず、仕切り直しが何回か行なわれてきたフランスのドビルパン外相の初訪日がやっと実現した。二月二十九日夜、特別機で福岡空港に到着。大宰府に近い日本旅館「大丸別荘」に入ったのは午後十時近かった。 旅館の座敷で、随員やモンフェラン駐日大使らとの内輪の夕食会が開かれた。「事前に椅子ではなく座敷でと言われていました。最初、ドビルパンさんは長い足が窮屈そうでしたが、前に出してお楽になったようです」と女将。メニューは会席料理。蕗のとう、刺身、豆腐の粕汁、子持ち昆布、胡麻白和え、鴨鍋、締めはジャコご飯。外相は日本酒の杯を重ね、座は盛り上がり、お開きになったのは深夜十二時を回っていた。外相は部屋に戻ると、座敷に敷かれた布団にもぐり込んだのである。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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