文民大統領と軍の「コアビタシオン」をめざすエジプト政治の大きな一歩
予定通りに進めば、6月30日に、エジプトで近代史上初めて、文民の大統領が就任宣誓を行なう。6月24日の大統領選挙公式発表によれば、ムハンマド・ムルスィーは51.7%の票を集めて当選した。自由で競争的な選挙で投票者の過半の支持を集めた候補者が大統領に就任することだけでもこれまでにない展開だが、それが前政権の仇敵とされて弾圧を受けてきたムスリム同胞団の幹部なのだから、隔世の感がある。 暫定統治を続けてきた国軍最高評議会(SCAF)によって大統領権限の一部が制約され、また、ムスリム同胞団が最大勢力となって主導してきた人民議会が司法判断によって解散された状態での大統領就任となるが、歴史的で大きなステップであることに変わりはない。正当な手続きにより国民から選出された文民の大統領が、実際に就任し、執務を行なうという事実は重い。「アラブ世界ではありえない」と思われてきたことが、次々と生じているのである。 ムルスィーは昨年1月25日に反ムバーラクの抗議行動が始まってから間もなく、治安機構に拘束された。常態化していた反体制派の予防拘禁であり、デモが大規模化し、政権の治安部隊と最初の衝突が生じた1月28日には、ムルスィーは牢獄にいたのである。それに対して今は、ムバーラクとその側近たちが牢獄にいる。ムルスィーは公式発表の翌25日、まず大統領府に入り、将校たちに迎えられた。そしてカメラの前で、かつてムバーラクが座っていた大統領執務室の椅子に座って見せた。長くエジプト政治を見てきた者にとってはややシュールな光景とすら言える。しかしこうして変化は進んでいく。

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