三十九年にわたってエリゼ宮(フランス大統領官邸)の厨房をあずかってきた料理長、ジョエル・ノルマン氏(六〇)が十二月三十一日、定年で退職した。仕えた大統領はドゴールから現在のシラクまで五人。今日のエリゼ宮の華麗な饗宴料理を築いた功労者だった。 ノルマン氏とはパリ特派員時代に取材を通じて知り合い、以来、私がフランスを離れてからもコンタクトをとってきた。十二月半ば、日本から一足早い退職祝いの国際電話をエリゼ宮に入れた。「いつ饗宴が入るか分からないからまだ退職気分なんて全くないよ」。聞きなれた野太い声が、厨房の喧騒とともに受話器から伝わってきた。
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