女性を次々と誘惑する、いわゆる女たらしが、その放蕩な人生のゆえに罰を受け、地獄に落とされたという話が、セビリアのある修道院で代々伝わっていた。神を畏れぬことへの劫罰の恐ろしさを説こうと、スペインの僧が反宗教改革の時代にこの伝説を劇にしたのが「ドン・ファン」劇の始まりである。 勧善懲悪のために誕生したはずだった「ドン・ファン」は、むしろその悪の部分ゆえに人を惹き付け、スペインの旅回りの一座によって、イタリア、フランスでも名声を高めることになった。ドン・ファンはフランスではモリエール劇の主人公となり、ドイツではゲーテの「ファウスト」に変装し、その後もE. T. A. ホフマン、プーシキン、トルストイらによって、何度地獄に落ちても不敵に蘇り、今日まで語り継がれている。
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