俳優の高嶋政伸さんと元妻でモデルの美元さんの離婚劇は、ある程度の高額所得者の夫と専業主婦との間に起こりえる典型的なものであった。つまり、本連載で繰り返し説明してきた「コンピ地獄」である。しかし、この離婚係争は、政伸さんに非常に有利な方向に進むことになった。
まずは、離婚に至るまでの経緯をおさらいしよう。
政伸さんと美元さんは2008年9月に結婚し、その1年11カ月後の2010年8月に政伸さんが自宅を出て別居している。
その後はお決まりのコースである。美元さんが婚姻費用、通称「コンピ」を請求して、あとはなるべく離婚裁判を長引かせて、将来のコンピの総額を夫に買い取らせることによって自らの利益を最大化しようとしたと思われる。
当時は美元さんが月109万円の生活費を請求していることが週刊誌等で大きく報道され、どこからかリークされたその内訳に高額の美容代などが含まれていたことから、美元さんはマスコミ等から激しくバッシングされていた(週刊女性 2012年8月7日号)。
しかし、筆者は、こうしたバッシングは美元さんの権利を不当に非難するものだと思う。コンピがクーポンとして支払われる結婚という名の金融商品を手に入れた以上、そこから最大限の利益を得ようとするのは極めて合理的なことであり、法の精神に則ったものでもある。
仮にそういったことで妻が利益を得るのが社会通念上おかしいというならば、それは美元さんを責めるべきではなく、議会制民主主義の原理原則に従い、国会を通して法改正をするべきなのである。
今回の離婚裁判も、お互いに相手が暴力を振るった、愛人を作った、ストーカーをした、精神的におかしいなどと罵り合う典型的なケースであった。
ここで面白いのは、こうして相手をどこまでも罵倒するのだが、その狙いはお互いに正反対だということだ。
つまり、政伸さんは美元さんが有責配偶者であり、それゆえに離婚できると主張していて、美元さんも政伸さんが極悪非道の有責配偶者であると主張しているのだが、こっちは逆にそれゆえに政伸さんからの離婚は法的に認めることはできずに、私はもう一度結婚生活をやり直したい、と主張するのである。もちろん、狙いは婚姻費用の支払い期間の最大化ではないだろうか。
筆者は、当時、コンピを月100万円程度と考え、これの5年分の6000万円と財産分与の2000万円ぐらいで、約8000万円の金額が動くのではないかとざっくりと読んでいた。後に裁判で明らかになったが、実際はこれよりかなり少ない金額で落ち着くことになった。
まず、コンピは月45万円であったようだ(週刊女性 2012年12月18日号)。このコンピから逆算できる政伸さんの年収は2500万円程度になろう。
そして、離婚裁判は、政伸さんに非常に有利な方向に動いたのだ。
東京家裁で小林愛子裁判官は2012年11月9日に、原告の高嶋政伸さん側の主張を認め、「2人の関係は破綻しており修復不可能だ」として、離婚を命じる判決を言い渡したのだ。政伸さんのほぼ完勝であった。
また、本連載の第12話で述べたように、日本の司法が離婚裁判において、有責主義から破綻主義にアクセルをさらに踏み込んでいるという印象を与えた。
美元さんが高裁で逆転する可能性はあり、また、控訴すればその間はまだ離婚が決まったわけではないので、引き続きコンピの支払い義務が生じる。しかし、高裁は家裁の続審なので、通常は家裁の判決はそれなりの重みがある。
第一審勝訴により、コンピ地獄がどれほど長く続くか、政伸さんの見通しははるかに明るくなったのだ。
結局、美元さんは控訴のカードをちらつかせながら3000万円の解決金を要求し、結局、この3000万円からそれまでのコンピの総額の1280万円を差し引いた1720万円で和解を成立させたようだ(週刊女性 2012年12月18日号)。
一審敗訴の結果を踏まえれば、美元さんは苦しい立場に立たされたわけで、この程度の金額で和解せざるを得なかったのだろう。
繰り返すが、当時は、政伸さん、美元さんが双方ともに罵り合う様子が報道されてバッシングを受けていたが(特に美元さん)、それらは離婚係争において、お互いに相手を有責配偶者にするための典型的な法廷戦略である。よって、なんら人間性などには関係ないことなのである。
筆者は、まだまだ若く、将来が有望なふたりが、また、新たなパートナーと出会い、幸せな結婚生活を送ることを願ってやまない。
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