中東―危機の震源を読む (55)

洗練の度を深めるオバマの対イスラーム言説

 六月四日にオバマ米大統領がカイロで行なった演説は、オバマ政権が米国の中東政策を根本理念において変化させようとしていることを印象づけるものだった。「私はここカイロに、米国と世界のムスリムとの新たな始まりを求めてやってきた」と切り出したオバマは、パレスチナ問題での、よりアラブ側の立場に近い姿勢を演説の目玉として押し出した。「双方の希求を満たす唯一の解決は、二国家を通じてしかない。そこでイスラエル人とパレスチナ人が、平和と安全のもとに暮らすのだ」として二国家解決案を明確に支持した。 そしてパレスチナ国家設立への障害となるヨルダン川西岸へのユダヤ人入植地拡大について、「米国は、イスラエル人による入植地の継続の正当性を認めない」と言い切ったことで、アラブ諸国や欧州諸国で広く支持される演説となった。

カテゴリ:
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top