分かりやすい正義ほど、危なっかしいものはない。“古代版行政改革”として名高い大化改新も、人々を幸せにしたかというと、実に心許ない。 大化改新は、「正義の政権交代」だったことになっている。『日本書紀』によれば、「悪」の蘇我氏を英雄・中大兄皇子(のちの天智天皇)や中臣(藤原)鎌足が成敗し、大改革が行なわれたという。守旧派の蘇我氏を追いやることによって、ようやく改革事業に手がつけられたと、誰もが小学校の社会科の授業で習ったはずだ。だが、その裏側を覗いてみると、この常識は相当に怪しい。『日本書紀』によれば、改新政府は明文法(律令)を整備し、土地改革を断行した。それまで豪族たちが私有してきた土地と民を国家が吸い上げ、戸籍を造り、耕地を民に公平に分配するという新しいシステムが導入されたのだという。

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