「ドバイ暗殺事件」イスラエルに反省の色なし

執筆者:吉岡良 2010年4月号
エリア: 中東

[エルサレム発]パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの幹部がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで暗殺された事件をめぐり、国際社会はイスラエルの対外情報機関モサドに疑いの目を向けている。だが、当のイスラエルは「われわれが関与した証拠はない」(リーベルマン外相)と、どこ吹く風。国内では「脅威であるハマス幹部の暗殺は大手柄」と考える市民も多く、モサド人気はむしろ高まっている。
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 捜査を進めるドバイ警察は、モサドの関与を疑わない。これまでに容疑者二十六人の顔写真を公開して国際手配。同警察のハルファン長官は「容疑者はイスラエルにおり、ネタニヤフ首相とモサドのダガン長官を指名手配リストのトップに載せる必要がある」と憤りを隠さない。
 一方、イスラエルは関与について否定も肯定もせず、捜査に協力する気もさらさらない。容疑者が本当にイスラエルにいるとすれば、事件は闇に葬り去られそうな情勢だ。
 もっとも、イスラエルが最大の受益者であるのは間違いない。暗殺された幹部は、イスラエルの存在を認めないハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの武器密輸を担う重要な役割を果たしていた。イスラエル・アラブ関係に詳しいジャーナリスト、アビ・イサハロフ氏は「ハマス指導部の行動が筒抜けであることが証明された。今後は密輸に慎重にならざるを得ないだろう」と話す。ヨルダン川西岸のハマス幹部も筆者の取材に対し「致命的とは言わないが、打撃だ」と率直に語った。
 ハマスはイスラエルに対して報復を誓ったが、パレスチナ自治区ガザからの対イスラエル作戦で目立った動きはない。むしろ、同様の暗殺が繰り返されるのを防ぐため、ハマス内にいるとみられる内通者の摘発に躍起になっているようだ。

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