9.11後も成長する欧州「格安」航空業

執筆者:大野ゆり子 2002年6月号

 モーツァルトは三十五年十カ月と九日の人生のうち、十年二カ月と八日間を旅の空で過ごしたといわれている。ガタゴト揺れる馬車の日々が、ジェット機での数時間に代わったものの、音楽家の生活には相変わらず旅がつきものである。特に大変なのは、チェロのような大きな楽器の奏者の空の旅である。楽器の中には億単位の値がつく名器もあるし、何よりも、演奏の大切な「パートナー」なので、値段云々にかかわらず、荷物として預けるような危険は冒せない。当然、座席が二席必要になり、チェロには立派に一人前の料金がかかることになる。「その点、指揮者は指揮棒一つだから、身軽でいいですねえ」と、あるチェリストに溜息まじりに言われた。ところが、である。指揮者にも意外な重荷がある――私のように旅についてくる妻がいるのだ! 目的地に着いたら何も食べずに演奏に精を出す楽器と違い、妻はお腹も空かせる。厄介だ。

カテゴリ: 経済・ビジネス
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top