クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

米朝不可侵条約の「複雑怪奇」

執筆者:徳岡孝夫 2003年3月号
エリア: 北米 アジア

 少し寒いのは土地がら仕方ないが、総書記金正日氏はこのごろ快適な日々だろう。「指導」に行く先々で、迎える民は笑顔を見せ、手を振り、自分を称賛する。テレビは朝から晩まで、自分を英雄だと報じている。先日は百万の民が、彼の当面の敵アメリカを、声そろえて罵った。ニュルンベルク党大会のヒトラー、革命記念日のスターリンも上機嫌だった。独裁者はみな機嫌がいい、元気なうちは。 彼は自分を仰ぎ見、自分に拍手する万余の群衆を見渡し、世界人民みなこうなんだと錯覚する。俺様は偉いんだぞ。 実は民は飢え、はだしで凍った川を渡って逃げているが、そういう話は独裁者の耳に届かない。彼は、自分がアメリカのブッシュと対等だと思っている。いやブッシュは国民に嫌われないよう公の場では背広にタイを締めるが、俺は民を恐れる必要がない。だからジャンパーのポケットに両手を突っ込んで平気である。俺の方が偉い……。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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