饗宴外交の舞台裏 (72)

見えない訪問者

執筆者:西川恵 2004年1月号
タグ: フランス
エリア: ヨーロッパ 北米

“見えない訪問者”(the invisible visitors)と英紙は書いた。ブッシュ米大統領夫妻が二〇〇三年十一月十九日から二十一日まで行なった英国の国賓訪問のことである。本来、国賓訪問は国を挙げて歓迎するイベントだが、テロを警戒し、一般市民との交歓は全面的に省かれる異例の訪問となった。 十八日夜、チャールズ皇太子の出迎えを受けてヒースロー空港に到着したブッシュ大統領とローラ夫人は、ヘリコプターで宿舎となるバッキンガム宮殿に直行した。 十九日朝、歓迎式典が宮殿で行なわれた。本来、国賓の式典はロンドン市内の陸軍総司令部前で行なわれるのが慣例で、ハイライトはバッキンガム宮殿までの馬車パレードである。エリザベス女王と国賓が、沿道の人々の歓迎に手を振って応えるのだが、これも中止。狙撃を警戒し、市内の移動も大統領専用の防弾車キャデラックで猛スピードで走り去った。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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