当世風の表現でいうと、ルーベンスはあきらかに「勝ち組」である。大画家でも、彼の同時代人のカラバッジョはテニスの試合がもとで口論のあげく相手を殺してしまったし、レンブラントは妻子に先立たれた後、四十代で破産状態に陥り、経済的には不遇の人生を送った。それに比べてルーベンスはヨーロッパきってのサラブレッドである。フランドルの貿易都市アントワープの助役を務めた父をもち、ドイツに生まれる。早くから画才を発揮してマントヴァ公国の宮廷画家となり、独、伊、仏、蘭、英、西、ギリシャ、ラテン語の八カ国語を自由に操り、洗練された社交術をもつ彼のところには、スペイン、イギリス、フランスの宮廷や富裕層から、肖像や祭壇画などの注文が殺到した。

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