饗宴外交の舞台裏 (168)

フランスに誕生する「事実婚」で「キャリアウーマン」のファーストレディー

執筆者:西川恵 2012年5月11日
エリア: ヨーロッパ

 フランス大統領官邸エリゼ宮の新たな主にフランソワ・オランド氏(57)が決まった。パートナーであるジャーナリスト、バレリー・トリルベレールさん(47)との関係を含め、どのようなスタイルをエリゼ宮に築くのか興味深い。

オランド氏の勝利を喜ぶワイン業界

エリゼ宮の主となるオランド氏(左)とバレリーさん(c)EPA=時事
エリゼ宮の主となるオランド氏(左)とバレリーさん(c)EPA=時事

 あまり知られていないが、党派を超えてオランド氏の大統領就任を喜んでいるのはフランスのワイン業界である。というのはここ2代続けてワインを嗜まない大統領だったからだ。  シラク大統領(1995-2007年)はビール、日本酒党。農業大臣をしたこともあってワイン業界は重要な支持層だったが、エリゼ宮の饗宴ではワインにほとんど口をつけなかった。 「飲めない訳ではないがワインが好きではなかった」シラク大統領に対して、「アルコールがまったくダメ」だったのがサルコジ大統領(07年-12年)だ。  同大統領の指南役でもあったバラデュール元首相はサルコジ氏が大統領に当選した直後、「フランス大統領はワインが飲めなければだめだ」と努力するように 言ったが、耳を貸さなかったという。この話を私はボルドー地方のワイン業界団体の幹部から聞いた。「フランスワインの最高の広告塔であるべき大統領がワイ ンを飲まないのは失望以外の何物でもない」とこの幹部は嘆いた。  オランド氏は量は飲まないが、料理と共にやるのが好きだ。好物は肉のカルパッチョ、牛肉の煮込みなど、どっしりしたもので、また歴代大統領がそうだったようにチョコレートに目がない。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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