北朝鮮の電撃的な権力再編(下)存在感を増す金慶喜党書記

執筆者:平井久志 2012年8月16日
エリア: 北米 アジア

 李英鎬(リ・ヨンホ)総参謀長解任劇の実相は諸説紛々だ。
 韓国の朝鮮日報は7月20日、李英鎬総参謀長が解任された直後、李氏を連行しようとした崔龍海(チェ・リョンヘ)軍総政治局長配下の兵士と李氏の護衛兵との間で戦闘が起き、20人余りが死亡したと報じた。
 しかし、20人もの死亡者が出る交戦があったならば、米国や韓国の情報にキャッチされる可能性が高いが、米韓両国ともこの報道に否定的だ。
 また、脱北者の知識人でつくる「NK知識人連帯」は7月30日、北朝鮮現地からの情報として、李英鎬解任の状況を伝えた。以下はその内容である。
 党政治局常務委員会が7月15日に開かれ、張成沢(チャン・ソンテク)党政治局員らが準備してきた新経済改建政策(経済改革案)に対する党中央委員会の最終的な決定書を討議した。案件が極めて重要だったために政治局常務委員会拡大会議の形式で政治局員や政治局員候補も参加して開催された。
 政治局常務委員は金正恩(キム・ジョンウン)第1書記、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長、崔永林(チェ・ヨンリム)首相、崔龍海軍総政治局長、李英鎬総参謀長の5人で構成される。金永南委員長と崔永林首相は経済改革案に賛成を表明。崔龍海軍総政治局長は「新経済改建政策は金正日総書記の先軍政治路線を経済的な成果として受け入れ、人民軍隊の物質技術的保障をさらによくすることのできる政策」と称賛した。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top