イスラム過激派を巡る不毛な論議(下)テロ抑止と「貧困対策」

執筆者:白戸圭一 2013年5月27日
エリア: アフリカ 中東

 アネリー・ボタは、1980年代以降、ケニアから主にサウジアラビアに留学した多数のイスラム教徒が、イスラム教の原理主義一派であるワッハーブ派の教えを身に着けてケニアに帰国し、過激主義を広める役割を担っている事実に着目する。

 人がテロを起こすには「自らの行為」と「その正当性」を橋渡しする思想的媒介項が必要だ。かつて、それがマルクス主義だった時代もあるし、特定の宗教だったこともある。21世紀初頭の今日においては、イスラム教の中の過激主義思想がその役目を担ってしまっているのだ。

 その上で、ボタは、彼らのリーダー層が近年、サウジアラビアなど中東産油国から送られてきた資金を原資に、ケニアの低開発地域でインフラ建設や奨学金提供などを行なっている事実を挙げる。本来ならば政府によって提供されるべき公共サービスが存在しない地域で、過激派がサービス提供を代行することによって住民の支持を獲得しているのである。そこには、パレスチナ自治区ガザにおけるハマス、レバノンにおけるヒズボラの支持拡大と同じ構造を見ることができる。

カテゴリ: 社会 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
白戸圭一(しらとけいいち) 立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。
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