クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

悩ましく難しいイラクからの引き際

執筆者:徳岡孝夫 2006年2月号
エリア: 中東

 戦争は、始めるより止めるときの方がずっと難しい。軍艦マーチで景気よく始まった日本の戦争も、昭和二十年八月に泣きの涙のうちに終わった。 昭和天皇の御聖断によってポツダム宣言受諾と決まり、詔書収録のあと、録音の具合を気遣う天皇が「もういっぺん読もうか」と仰ったと語って、当時の内閣書記官長・迫水久常は回顧談の途中で絶句落涙した。大日本帝国が七転八倒のうちに矛をおさめた瞬間である。 私は、もう一つの戦争が終わる瞬間を目撃した。それは一九七五年四月二十九日、南シナ海に浮かぶ米第七艦隊旗艦ブルーリッジの飛行甲板でだった。

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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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