逆張りの思考

急速に発展する新産業

執筆者:成毛眞 2016年4月28日
タグ: 韓国
エリア: アジア

 少し前の話になるが、グーグルの傘下にある企業が開発した人工知能「Alpha Go」が、韓国人プロ棋士イ・セドルに5戦4勝したことが話題になった。イ九段は囲碁世界タイトルに18回優勝するなど「囲碁界の魔王」と呼ばれている棋士だ。最大の驚きは、人工知能が人間に勝ったことそのものではなく、それが2016年だったことだ。専門家の多くはまだ10年はかかると予想していたのだ。
 あまり知られていない分野の進化のスピードには、恐るべきものがある。うかうかしていると、いつの間にか常識が変わっているということにもなりかねない。
 たとえば人工知能の分野では、東京大学発のベンチャー、プリファード・ネットワークスが製造の現場を変えそうだ。従来のロボットは、整列した部品をつかむことはできるが、ランダムに山積みされた部品をつかむのは苦手としてきた。なんとか覚えさせても、部品の形や大きさが変わるとお手上げだった。しかし同社が開発した人工知能を搭載すると、ロボットは自発的に学習し、山と積まれようがサイズや大きさが変わろうが、部品をつかめるようになる。
 東京工業大学発のベンチャー、ハイボットはパイプの中の点検を行う産業ロボットの機構とその頭脳の開発を行っている。化学工場には長大なパイプがつきものだが、その内部のメンテナンスは大きな課題となっていた。これをロボットに任せることができるようになれば、高効率化が期待できる。
 化学工場と言えば、マイクロ波化学は大阪大学発祥のベンチャーだ。電子レンジでおなじみのマイクロ波を、化学工場の高温高圧が求められる製造装置に取り入れるための技術開発を行っている。これを使うと、化学工場の省エネ、コンパクト化が進むのだ。当然、コストも低下するだろう。
 セルロースナノファイバー(CNF)も注目だ。これは企業名ではなく、植物繊維由来の軽くて強い新素材の名称だ。すでに三菱鉛筆はインクにこれを混ぜたボールペンを欧米で販売している。CNFをインクに配合することで粘度が下がり、かすれにくくなるという。素早く続けて文字を書く文化圏での評判は上々だそうだ。
 CNFをおむつに応用している例もある。いまどきのおむつが競っている機能の一つに消臭があるが、これを混ぜることで、その効果が上がるのだ。
 CNFは、強い素材をさらに強くすることもできる。タイヤのゴム素材に混ぜると強度が2倍近くになるだけでなく、黒以外の色も選べるようになる。航空機のギャレー(厨房)やシートの素材に加えると、強化と軽量化が同時に達成できる。飛行機の製造に植物由来の材料を使うとなると、あたかも複葉機の時代に戻ったようで、少し愉快でもある。この分野はベンチャーよりも、製紙会社などの大手企業がリードしているようだ。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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