逆張りの思考
逆張りの思考

自動運転の進化で変わること

執筆者:成毛眞 2016年6月9日
タグ: 日本
エリア: アジア

 これ以上、自動車の運転支援システムが高度化すると、自動車保険を扱う損保会社の就職説明会の様子が変わるだろう。
 先日、車をポルシェからポルシェのSUVへ乗り換えた。馬力やデザインの進化にも驚いたが、もっと驚いたのは、オプションでつけた運転支援システムだ。話には聞いていたが、ここまで運転が楽になるとは思っていなかった。
 レーンキープ機能を使うと、本当に苦労なく車線をキープできる。車の左右の白線を感知し、その中央付近に留まろうとするので、よほど路幅が狭いところでない限りしっかり中央を走行できる。もちろん、カーブでも大丈夫。感動しているうちに、何のためにハンドルに手を置いているのかが分からなくなってくる。
 クルーズコントロール機能も秀逸だ。これは、前を走行する車から、たとえば30メートルの車間距離を保つという機能だ。これもまた素晴らしく、だんだんと、何のためにアクセルに右足を乗せているのかが分からなくなる。
 この二つの機能を体験してしまった私は、高速道路で追越車線を走ることがなくなった。走行車線で、追尾に適した視界を遮らない程度に車高の低い軽自動車などを見つけると、その後ろにつけて楽に運転することを覚えたからである。新車のせっかくの馬力を試す機会が格段に減ったことになるが、しかし、楽に勝るものはない。あまりに楽なので、一日何百キロも高速道路を走る旅行を計画してしまったくらいだ。
 もちろん、まだまだ人が介在しなくてはならない部分が多いが、新車を買えば、高速道路での安全な走行と、それから日本の車が率先して搭載しているインテリジェントパーキングアシスト機能、つまり、ほぼ自動での安全かつ正確な駐車が保証されるとなったら、事故は減り、その結果、新車に乗る人たちの自動車保険の料金は下がるだろう。
 今、自動車保険の世界では、走行距離や運転が荒いか丁寧かなどに基づいて保険料が決まる「テレマティクス保険」が注目されているが、これは要するに、事故を起こす可能性の低い人の保険料を安く、可能性の高い人の保険料を高くする仕組みだ。
 今後は乗っている車の機能によって、保険料が変わることも十分に考えられる。車が新しくなればなるほど、保険料は下がる一方になるはずだ。自動車メーカーは、常に安全性の高い車の開発を目指しているからだ。
 すると、どうなるか。よく、学生を対象にしたアンケート結果に基づいた就職人気ランキングのようなものがある。上位には金融機関が並ぶのが常で、そこには損保の企業の名前も並ぶ。大手損保にとって、自社のビジネスに占める自動車保険の割合は高いとはいえ、問題は、ほぼ自動車保険専門となっている損保会社である。長いスパンで見れば、こういった会社の給与は下がっていくだろう。
 就職人気ランキングにも変化が起こるはずだ。高い給与をもらえる可能性が低くなると、学生からの人気も低くなり、それまでのようには就職説明会に学生を集められなくなるだろう。

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執筆者プロフィール
成毛眞 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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